序論
八潮市におけるデジタル改革の意義と財源確保の戦略的重要性
現代社会において、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、自治体運営の効率化、市民サービスの向上、そして地域競争力の強化を実現するための不可欠な要素となっています。八潮市においても、デジタル技術を積極的に活用し、行政手続きのオンライン化、データに基づいた政策決定、市民との双方向コミュニケーションの深化などを通じて、より質の高い行政サービスを提供し、「住みやすさナンバー1のまち 八潮」 1 の実現を加速させることが期待されます。
しかしながら、このような野心的なデジタル改革を推進するためには、安定かつ多様な財源の確保が不可欠です。従来の市税収入や地方交付税に依存するだけでは、先進的なデジタル投資や継続的なシステム更新、専門人材の育成といったニーズに十分応えることが困難になる可能性があります。したがって、八潮市がデジタル改革を成功裏に導くためには、既存の財政構造を理解しつつ、国や県の補助制度、さらには民間資金や新たな資金調達手法など、あらゆる可能性を視野に入れた戦略的な財源確保策を講じることが極めて重要となります。
本報告書の目的、構成、および調査範囲
本報告書は、八潮市がデジタル改革を推進する上で活用し得るあらゆる財源について、網羅的かつ詳細に調査・分析し、具体的な活用戦略を提示することを目的としています。八潮市の財政担当者やデジタル改革推進担当者が、実務的な指針として活用できるよう、具体的な制度内容、申請要件、先進事例、そして八潮市における適合性などを明らかにします。
本報告書の構成は以下の通りです。
- 第1部:八潮市の現行財政基盤とデジタル化投資の現状分析 八潮市の歳入構造や、既にデジタル改革に関連して投じられている予算・事業を分析し、現状の財政的体力と課題を把握します。
- 第2部:国レベルで活用可能な交付金・補助金制度 デジタル田園都市国家構想交付金や総務省管轄の支援策など、国が地方自治体のDXを支援するために設けている主要な公的資金制度を詳説します。
- 第3部:埼玉県及び広域連携による支援と機会 埼玉県が提供するDX推進支援策や、近隣自治体との連携による共同での財源確保・事業推進の可能性について考察します。
- 第4部:革新的・代替的財源調達手法の導入検討 企業版ふるさと納税、ガバメントクラウドファンディング、PPP/PFI、地方債、市有資産の活用など、伝統的な歳入以外の新たな財源調達アプローチを検討します。
- 第5部:総合的提言と実行に向けた戦略的アプローチ 調査結果を踏まえ、八潮市の特性に応じた最適な財源ポートフォリオ、具体的なアクションプラン、そして財源戦略とDX推進体制の連携強化策を提言します。
調査範囲は、八潮市の市税収入に留まらず、国・県の交付金・補助金、企業からの寄付、市民参加型の資金調達、民間活力の導入、市有資産の有効活用、さらには地方債といった、デジタル改革の推進に資するあらゆる財源を対象とします。
第1部:八潮市の現行財政基盤とデジタル化投資の現状分析
八潮市のデジタル改革を推進するための財源戦略を構築するにあたり、まずは市の現在の財政状況と、既にデジタル化に投じられている資源の実態を正確に把握することが不可欠です。本章では、公表されている予算・決算資料に基づき、八潮市の歳入構造の概観と、デジタル関連事業への投資状況を分析します。
1.1. 八潮市の歳入構造概観
八潮市の財政運営の基盤となる歳入構造を理解することは、新たな財源確保策を検討する上での出発点となります。令和3年度から令和5年度にかけての決算書及び予算書 1 を参照すると、市の歳入は市税、地方交付税、国庫支出金、県支出金、地方債、その他収入などによって構成されていることが確認できます。これらの詳細な内訳は、各年度の予算概要や決算書に添付されている資料(例えば、令和5年度当初予算の概要 1 内の歳入項目に関するPDF資料 1 や、令和4年度一般会計決算書 4 の歳入事項別明細 4)に示されています。
これらの資料を分析することで、八潮市の財政における市税などの自主財源と、国庫支出金や地方交付税といった依存財源の比率、すなわち財政力指数や経常収支比率といった財政指標から読み取れる財政の弾力性や健全性が明らかになります。一般的に、自主財源の割合が高いほど、自治体は独自の判断で事業に資金を配分しやすくなります。一方で、依存財源の比率が高い場合、特定の使途が定められた国庫支出金などの影響を受けやすく、新規のデジタル改革のような分野への重点的な投資には、的を絞った補助金等の獲得がより重要になってきます。八潮市が「ありとあらゆる財源を活用したい」という意向を持つ背景には、このような既存の歳入構造の特性と、デジタル改革という新たな財政需要への対応という課題意識があると考えられます。現在の財政基盤の強みと弱みを認識することが、今後の財源戦略の方向性を定める上で不可欠です。
1.2. デジタル改革に関連する既存予算及び事業の評価
次に、八潮市の令和5年度当初予算 1 を中心に、既にデジタル改革に関連して執行されている、あるいは計画されている予算や事業の実態を評価します。令和5年度当初予算の概要 1 によれば、「市民生活に密着した社会資本の整備などを中心に、「第5次八潮市総合計画」で掲げる「住みやすさナンバー1のまち 八潮」を実現するため、事業の必要性、優先度や事業効果などを検証し、予算編成を行いました」とあり、この中にデジタル技術を活用した事業が含まれている可能性があります。
具体的な事業としては、情報システムの運用・保守経費、行政手続きのオンライン化推進、市民向け情報提供ツールの開発・改修、庁内業務効率化のためのICT導入などが考えられます。これらの既存事業の予算規模、目的、成果を評価することで、市が現在どの程度デジタル化に投資しているのか、そしてそれが目指すべき「デジタル改革」の全体像に対してどの程度の進捗を示しているのかを把握できます。
もし、デジタル関連の予算が各課に分散しており、市全体のDX戦略と必ずしも整合性が取れていない場合や、計画されている「デジタル改革」の規模に対して既存の予算配分が明らかに不足している場合には、新たな財源確保の必要性がより一層高まります。例えば、令和5年度当初予算の主な事業一覧 1 に、明確な「DX推進費」のような項目が立てられていない場合、デジタル改革がまだ個別最適の段階に留まっている可能性も示唆されます。このような現状分析を通じて、真に必要とされる追加的財源の規模感や、重点的に投資すべき分野を特定することが、効果的な財源戦略の策定に繋がります。
第2部:国レベルで活用可能な交付金・補助金制度
地方自治体がデジタル改革を推進する上で、国の交付金・補助金制度は極めて重要な財源となります。国は、デジタル技術を活用した地方創生や行政サービスの向上を積極的に後押ししており、多様な支援メニューを用意しています。本章では、特に八潮市のデジタル改革に貢献し得る主要な国の制度について、その概要、対象事業、申請要件などを詳述します。
2.1. デジタル田園都市国家構想交付金
デジタル田園都市国家構想交付金は、デジタル技術の活用を通じて地方の社会課題解決や魅力向上を図る地方公共団体の自主的・主体的な取り組みを支援し、地方創生の深化を促すことを目的とした、現在の国における看板政策の一つです 6。この交付金は、従来の地方創生推進交付金や地方創生拠点整備交付金などを統合・再編したものであり 7、自治体DXを推進する上で中心的な役割を担うことが期待されています 8。
制度概要、対象事業、申請要件
本交付金は、地方公共団体が策定する「地方版総合戦略」に位置付けられた事業を支援対象としています 9。具体的には、デジタルを活用した地域の課題解決や魅力向上の実現に向けた取り組みであり、ハード・ソフト両面の経費が対象となり得ます 11。愛知県や神奈川県の事例 9 を見ると、観光振興、農林水産業の振興、移住・定住促進、イノベーション創出など、多岐にわたる分野で活用されており、八潮市においても幅広いデジタル改革プロジェクトへの適用が考えられます。
重要な点として、本交付金の審査においては、マイナンバーカードの普及状況や利用シーン拡大の取り組みが評価に反映されると明記されています 7。これは、国がマイナンバーカードをデジタル社会の基盤として重視していることの表れであり、八潮市が本交付金の採択を目指す上で、マイナンバーカードの利活用促進策とデジタル改革プロジェクトを連携させることが戦略的に有効であることを示唆しています。単にITシステムを導入するという視点だけでなく、デジタル技術をいかにして地域全体の課題解決や魅力向上に結びつけるか、という広範な視点から事業を構想し、地方版総合戦略との整合性を明確に示すことが、採択の鍵となります。
タイプ別詳細と八潮市への適合性検討
デジタル田園都市国家構想交付金には、事業の特性に応じて複数のタイプが設けられています。
- 優良モデル導入支援型(TYPE1): 他の地域で既に確立されている優良なモデルやサービスを活用し、迅速に横展開するDXの取り組みを支援します 7。例えば、他自治体で実績のある地域アプリの導入や、「書かない窓口」の設置などが該当し、補助率は1/2とされています 8。八潮市が早期に成果を出したい市民サービス分野などで活用しやすいタイプと言えるでしょう。APPLICの事例では、母子健康手帳のアプリ化といった具体的な事業が採択されています 12。
- データ連携基盤活用型(TYPE2): デジタル原則とアーキテクチャを遵守し、オープンなデータ連携基盤を活用した複数のサービス実装のうち、モデルケースとなり得るDXの取り組みを支援します 7。補助率は1/2です 8。都市OSの整備や、分野横断的なデータ利活用を目指す場合に適しています。
- マイナンバーカード高度利用型(TYPE3) / デジタル社会変革型【TYPE3】: TYPE2の要件を満たし、かつ「新規性の高いマイナンバーカードの用途開拓」や「AIを高度活用した準公共サービスの創出」など、総合的に優良な事業を支援するもので、補助率は2/3と手厚くなっています 7。マイナンバーカードを活用した先進的な市民サービス開発など、八潮市のデジタル改革を象徴するようなプロジェクトに挑戦する際に検討すべきタイプです。
- デジタル行財政改革先行挑戦型【TYPE S】: 政府が掲げる「デジタル行財政改革」の考え方に合致し、国や地方の統一的・標準的なデジタル基盤への横展開が見込まれる先行モデル的なDXの取り組みを支援します。補助率は3/4と非常に高く設定されており 8、行政内部の抜本的な業務改革や、広域連携を視野に入れたシステム構築などに適しています。
- 地方創生テレワーク型: 「転職なき移住」を実現し、地方への新たな人の流れを創出するテレワーク関連の取り組みを支援します 7。八潮市がワーケーション誘致やサテライトオフィス設置などを通じた関係人口・交流人口の拡大を目指す場合に活用できます。
- 地方創生拠点整備タイプ: デジタルを活用した観光や農林水産業の振興等に資する拠点施設の整備などを支援します 7。
これらのタイプの中から、八潮市が計画するデジタル改革プロジェクトの特性や目指す成果に応じて、最適なものを選択し、申請戦略を練ることが重要です。特に、マイナンバーカードの普及促進と利用拡大は、多くのタイプで共通して重視される要素であるため 7、これを軸とした事業提案は採択の可能性を高める上で効果的です。例えば、マイナンバーカードを活用したオンライン申請システムの拡充や、地域活動への参加ポイント付与といった施策は、市民の利便性向上とカード普及の双方に貢献し、交付金の趣旨にも合致すると考えられます。
2.2. 総務省管轄の自治体DX推進支援策
総務省は、地方自治体の情報システムの標準化・共通化や、地域におけるデジタル基盤の整備など、自治体DXを多角的に支援する施策を展開しています。これらの支援策は、八潮市がデジタル改革を進める上で、特に基盤となるIT環境の整備や、新たなデジタルサービスの導入において大きな助けとなります。
情報システム標準化・共通化、オンライン手続推進支援
総務省は、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に基金を設け、自治体情報システムの標準化・共通化やオンライン手続きの推進を支援しています 13。具体的には、令和7年度までを期限とする「自治体情報システムの標準化・共通化」のために7,182億円(国費10/10)の基金が措置されており、既に多くの団体がこの支援を活用しています 13。この支援は、八潮市が基幹系システム等を国の示す標準仕様に準拠したものへ移行する際の経費負担を大幅に軽減し、将来的なシステム維持管理コストの削減や、他団体とのデータ連携の円滑化にも繋がります。
また、「オンライン手続の推進(マイナポータル)」に関しても、令和4年度までの基金事業として250億円(国費1/2)が措置され、多くの団体がマイナポータルを通じた行政手続きのオンライン化を進めるための支援を受けてきました 13。今後も、マイナンバーカードの普及と連携し、市民が庁舎に来訪せずとも各種申請や届出を行える環境を整備する上で、同様の支援が期待される分野です。
これらの支援策を活用することで、八潮市は行政運営の効率化と市民サービスの利便性向上を両輪で進めることが可能になります。
地域デジタル基盤活用推進事業(計画策定支援、実証事業、インフラ整備補助)
「地域デジタル基盤活用推進事業」(通称「デジ活」)は、総務省が推進する、地域のデジタル基盤整備とそれを活用した課題解決を支援する重要なプログラムです 8。この事業は、主に以下の3つの支援メニューから構成されています。
- 計画策定支援: デジタル実装に必要となる地域課題の整理、導入・運用計画の策定、ネットワーク構成や機器の要件定義、費用対効果の検討などを、専門家が3ヶ月程度派遣され、伴走型で支援するものです 8。自治体に費用負担は発生しないため 8、八潮市がDXプロジェクトの初期段階で構想を具体化し、実現可能性の高い計画を策定する上で非常に有効な支援です。
- 実証事業: ローカル5GやWi-Fi HaLowといった新しい通信技術を活用し、全国の地域が共通に抱える課題解決や、地場企業の事業活動効率化に資する先進的なソリューションの実用化に向けた実証を支援します 14。事業規模は1,000万円~1億円程度で、令和6年度の予算は約16.5億円、採択団体も増加傾向にあります 15。八潮市が特定の地域課題(例えば、防災、交通、見守りなど)に対して、先進技術を用いた解決策を試行する際に活用できます。
- 補助事業: デジタル技術を活用して地域課題の解決を図るために必要な通信インフラ(ローカル5G、LPWA、Wi-Fiなど)の整備費用を補助します 8。補助率は1/2で、費用の上限は特段設けられていませんが、事業規模の妥当性が審査されます 14。この補助事業の特筆すべき点は、地方公共団体の負担分(1/2)について地方債を起債することが可能であるとされている点です 14。これにより、初期投資が大きいインフラ整備事業であっても、八潮市の財政負担を平準化し、実施しやすくする効果が期待できます。
この「地域デジタル基盤活用推進事業」は、計画策定から実証、そして本格的なインフラ整備へと、段階的にステップアップしていくことを可能にする構造になっています。八潮市としては、まず計画策定支援を活用して専門的知見を取り入れ、具体的かつ効果的なDXプロジェクトを立案し、その上で実証事業や補助事業への申請を検討するという、戦略的なアプローチが考えられます。特に、インフラ整備補助と地方債の組み合わせは、広範囲なWi-Fi環境の構築や、特定のエリアにおけるローカル5G網の整備など、八潮市のデジタル基盤を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。
2.3. その他中央省庁による関連支援プログラム
デジタル田園都市国家構想交付金や総務省の支援策以外にも、各中央省庁が所管分野におけるデジタル化を推進するための独自の補助金・助成金制度を設けている場合があります。例えば、農林水産省はスマート農業の推進に関連する支援 9、文部科学省はGIGAスクール構想後の教育現場のICT環境整備やデジタル教材導入支援、経済産業省は中小企業のDX推進や地域経済のデジタル化支援など、多岐にわたる可能性があります。
これらの省庁別支援策は、特定の課題や分野に特化している場合が多いため、八潮市のデジタル改革の中でも、例えば「農業分野のDX」「教育DX」「地域産業の活性化に資するDX」といった具体的なテーマに取り組む際に、ピンポイントで活用できる可能性があります。
したがって、八潮市としては、総務省や内閣府の動向を注視するだけでなく、市の各部局が関連する中央省庁のウェブサイトや公募情報を定期的に確認し、活用可能な制度を見逃さないようにする体制を整えることが望まれます。特に、市の特定の産業振興策や、教育・福祉分野のサービス向上策とデジタル化を結びつけることで、新たな財源獲得の道が開けるかもしれません。例えば、八潮市に特徴的な地場産業が存在する場合、その産業のDXを支援する経済産業省系の補助金と、市の地方創生戦略を組み合わせるといったアプローチが考えられます。
Table 1: 国の主要DX関連交付金・補助金一覧
交付金・補助金名 | 所管省庁 | 主要目的 | 対象事業例(DX関連) | 補助率/支援内容 | 主要申請要件/備考 | 参照資料 |
デジタル田園都市国家構想交付金 | 内閣官房・内閣府 | デジタルを活用した地方の社会課題解決・魅力向上 | 地方版総合戦略に位置づけられた事業、マイナンバーカード普及・利用促進を評価に反映 | 6 | ||
– 優良モデル導入支援型(TYPE1) | 他地域で確立された優良モデルの迅速な横展開 | 地域アプリ導入、書かない窓口設置、母子健康手帳アプリ化 | 1/2 | 7 | ||
– データ連携基盤活用型(TYPE2) | オープンなデータ連携基盤を活用したモデルケースとなる取組 | 都市OS整備、分野横断データ利活用 | 1/2 | デジタル原則・アーキテクチャ遵守 | 7 | |
– マイナンバーカード高度利用型(TYPE3) / デジタル社会変革型【TYPE3】 | 新規性の高いマイナンバーカード用途開拓、AI高度活用等 | マイナンバーカード活用先進サービス、AI活用準公共サービス | 2/3 | TYPE2要件充足、新規性・高度性 | 7 | |
– デジタル行財政改革先行挑戦型【TYPE S】 | 国・地方の標準的デジタル基盤への横展開に資する先行モデル | 行政内部の抜本的業務改革、広域連携システム | 3/4 | 政府のデジタル行財政改革方針に合致 | 8 | |
自治体情報システムの標準化・共通化支援 | 総務省 | 自治体情報システムの標準化・共通化による行政効率化、コスト削減 | 基幹系システム等の標準仕様への移行 | 国費10/10(基金事業) | 令和7年度まで | 13 |
オンライン手続の推進(マイナポータル)支援 | 総務省 | マイナポータルを通じた行政手続きのオンライン化推進 | オンライン申請システムの導入・拡充 | 国費1/2(基金事業、令和4年度まで実績あり) | 13 | |
地域デジタル基盤活用推進事業 | 総務省 | 地域のデジタル基盤整備と活用による課題解決 | 8 | |||
– 計画策定支援 | DX導入計画策定支援 | 地域課題整理、導入計画策定、要件定義等 | 専門家派遣(自治体費用負担なし) | 8 | ||
– 実証事業 | 先進的ソリューション(ローカル5G等)の実用化支援 | ローカル5G等活用課題解決、人材不足対応ソリューション実証 | 定額補助(1,000万~1億円程度) | 新しい通信技術の活用 | 14 | |
– 補助事業 | 通信インフラ(ローカル5G、LPWA等)整備 | 地域課題解決のための通信インフラ整備 | 1/2(自治体負担分は地方債起債可) | 8 | ||
高度無線環境整備推進事業 | 総務省 | 5G等の高度無線環境の全国整備、地域活性化 | 条件不利地域における光ファイバ等伝送路整備 | 事業費の一部補助 | 対象地域:過疎地、離島等 | 8 |
第3部:埼玉県及び広域連携による支援と機会
国の支援制度に加えて、埼玉県が提供するDX推進支援策や、近隣自治体との連携を通じた機会の活用も、八潮市のデジタル改革を多角的に支える上で重要です。本章では、これらの県レベル・広域レベルでの支援と機会について考察します。
3.1. 埼玉県DX推進支援ネットワークの活用戦略
埼玉県は、県内企業のDXを推進するため、国、県、市、経済団体、金融機関など27機関が連携する「埼玉県DX推進支援ネットワーク」を令和3年10月に立ち上げています 17。このネットワークは、八潮市を含む県内自治体や中小企業にとって、DXに関する情報収集、専門家相談、ソリューション導入、人材育成といった多岐にわたる支援を得るための貴重なプラットフォームです。
八潮市としては、このネットワークを最大限に活用する戦略を立てるべきです。具体的には、以下の点が挙げられます。
- 情報集約と相談窓口の活用: ネットワークのウェブサイトには、構成機関が提供するセミナー、研修、専門家派遣、補助金などの支援策情報が集約されています 17。まずはこれらの情報を網羅的に確認し、八潮市のニーズに合致するものをリストアップすることが第一歩です。さらに、無料で利用できる「DXコンシェルジュ」 17 に相談することで、DXの進め方に関する初期的な悩みや課題について専門的なアドバイスを受けることができます。これは、具体的なプロジェクト形成前の段階で非常に有効です。
- ソリューション提供事業者とのマッチング: ネットワークには約310の「埼玉DXパートナー」 17 が登録されており、これらは県内企業のDXを支援するITベンダーやコンサルティング会社です。八潮市が特定のデジタルソリューションを導入する際に、これらのパートナー企業から情報収集を行ったり、提案を求めたりすることで、市の実情に合った最適な解決策を見つけやすくなります。
- 人材育成プログラムの活用: DXを推進するためには、市職員のデジタルスキル向上が不可欠です。ネットワークでは、DX推進人材の育成を目的とした研修講座が通常価格よりも安価で提供されており、AI活用、セキュリティ、経営課題解決に関するDX技能習得など、多岐にわたるコースが用意されています 17。これらの講座を計画的に活用し、市職員のDXリテラシーと専門性を高めることは、持続可能なデジタル改革の基盤となります。
このネットワークは単なる補助金情報の提供元に留まらず、情報、相談、技術、人材育成といったDX推進に必要な要素を包括的に支援するエコシステムとして機能しています。八潮市がこのネットワークの各機能を戦略的に活用することで、資金調達だけでなく、DXを推進するためのノウハウや人的ネットワークといった無形の資産も獲得し、デジタル改革をより効果的かつ持続的に進めることができるでしょう。
3.2. 県内自治体向けDX関連支援の動向と八潮市のポジショニング
埼玉県自体が市町村に対して直接的に大規模なDX推進補助金を提供しているという情報は、提供された資料からは明確には確認できませんでした。しかし、県内の中小企業や特定の事業者を対象としたDX関連の補助金は存在しており 19、また前述の「埼玉県DX推進支援ネットワーク」 17 を通じた間接的な支援は活発です。
例えば、戸田市では市内中小企業等を対象としたDX推進補助金制度(上限50万円、補助率1/2)を設けており、システム導入費用やクラウドサービス利用料、DX人材教育費などを支援しています 20。これは、八潮市が市内の経済団体や商工会と連携し、地域経済のDXを支援する際の参考モデルとなり得ます。また、埼玉県が実施する「地域商業・商店街活動応援事業(ソフト)補助金」 19 なども、商店街のデジタル化といった特定のテーマであれば活用できる可能性があります。
八潮市としては、これらの県内他市の動向や、県がどのような分野のDXを重視しているかを常に把握し、自市のDX戦略と連携できるポイントを探ることが重要です。埼玉県DX推進支援ネットワークには、さいたま市、川越市、川口市、越谷市といった県内主要市も構成機関として参加しており 17、これらの市との情報交換を通じて、県レベルでの支援策の最新情報を得たり、共同で県に対して新たな支援制度の創設を働きかけたりすることも考えられます。八潮市が県内でどのようなDXの先進事例を構築し、それを県全体の活性化にどう繋げるかをアピールすることで、県からの注目度を高め、間接的な支援を引き出すことも期待できるでしょう。
3.3. 近隣自治体との連携による共同財源確保・事業推進の可能性
デジタル改革においては、単独の自治体で取り組むよりも、近隣自治体と連携することで、より大きな効果や効率性を得られる場合があります。特に、共通の課題を抱える自治体同士が協力してデジタルソリューションを導入・運用する場合や、広域的なデータ連携基盤を構築する場合などは、連携のメリットが大きくなります。
ガバメントクラウドファンディングの成功事例として、複数の自治体が連携して世界自然遺産保護プロジェクトの資金調達に成功したケースが報告されています 21。これは環境分野の事例ですが、DX分野においても同様の広域連携による共同での財源確保や事業推進は十分に可能です。八潮市は、例えば草加市と草加八潮消防組合を共同で運営している実績があり 22、このような既存の協力関係を土台として、DX分野でも連携を模索することが考えられます。
具体的な連携の形態としては、以下のようなものが想定されます。
- 共通システムの共同調達・運用: 複数の自治体で共通して利用する業務システム(例:人事給与、財務会計、庶務事務など)や、市民向けオンラインサービス基盤などを共同で調達・運用することで、初期導入コストや維持管理コストを削減できます。
- 広域データ連携基盤の共同構築: 防災、医療、交通、観光といった分野で、自治体の枠を超えたデータ連携基盤を共同で構築・活用することで、より広域的な課題解決や新たな価値創造に繋がります。
- 大型補助金への共同申請: 国の交付金の中には、広域連携による取り組みを高く評価するものがあります。複数の自治体が連携してスケールメリットや広範な効果をアピールすることで、単独での申請よりも採択の可能性が高まる場合があります。
- ノウハウ・人材の共有: DX推進に関する知見や専門人材を自治体間で共有し、相互に学び合うことで、各自治体のDX推進能力を底上げできます。
八潮市としては、地理的に隣接する草加市、三郷市、越谷市などとの間で、共通の行政課題やDXニーズを洗い出し、共同で取り組むことのメリットが大きい分野を特定し、具体的な連携プロジェクトの形成に向けた協議を開始することが推奨されます。特に、大規模なシステム投資や専門性の高い人材確保が求められるようなDXプロジェクトにおいては、「数の力」を活かした広域連携が、単独では実現困難な目標の達成を可能にする鍵となり得ます。
第4部:革新的・代替的財源調達手法の導入検討
従来の歳入や国・県の補助金に加え、より多様で革新的な財源調達手法を検討することは、八潮市のデジタル改革を安定的かつ持続的に推進するために不可欠です。本章では、企業版ふるさと納税、ガバメントクラウドファンディング、PPP/PFI、地方債、そして市有資産の活用といった、代替的な財源調達アプローチについて、その可能性と八潮市における導入のポイントを考察します。
4.1. 企業版ふるさと納税の戦略的活用
企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)は、企業が地方公共団体の行う地方創生事業に対して寄付を行った場合に、法人関係税から税額控除する仕組みです 23。寄付額の最大約9割に相当する税負担軽減効果があり 23、企業にとっては社会貢献(CSR)やSDGsへの取り組みをPRしつつ、実質的な負担を抑えて地域を応援できるメリットがあります。令和2年度には寄付金額が前年度比約3.3倍の約110.1億円に増加するなど、活用が急速に進んでいます 23。
制度詳細、税制メリット、デジタル分野での成功事例
企業が寄付を行う動機としては、創業地や工場立地自治体への貢献、周年事業の一環、SDGsへの貢献、首長等からのトップセールスなどが挙げられます 24。企業にとっては、寄付を通じて地方公共団体との新たなパートナーシップを構築できる点も魅力です 23。
八潮市が企業版ふるさと納税をデジタル改革の財源として活用するためには、企業の関心を惹きつけ、共感を呼ぶような魅力的なプロジェクトを企画・提案することが重要です。単に「システムを導入します」というだけでなく、そのデジタル化が八潮市のどのような地域課題を解決し、どのような未来像を描くのかを具体的に示す必要があります。例えば、デジタル技術を活用した子育て支援サービスの充実、高齢者の見守りシステムの構築、地域経済活性化のためのDXプラットフォーム整備といったプロジェクトは、企業のCSR戦略やSDGsの目標(例:SDG11「住み続けられるまちづくりを」24)とも親和性が高いと考えられます。
具体的なデジタル分野での活用事例は、内閣府地方創生推進事務局が発行する事例集 24 などで確認できますが、群馬県川場村のバイオマス発電事業の事例 26 のように、直接的なデジタル案件でなくとも、地域課題解決型のプロジェクトであれば対象となり得ます。八潮市としては、デジタル改革プロジェクトを「地域課題解決」や「市民生活の質の向上」といった、より広範な文脈で捉え直し、企業の共感を呼ぶストーリーを付加して発信することが求められます。また、企業の人材を自治体に派遣することで税制優遇を受けられる「人材派遣型」 23 の活用も、専門知識を持つ人材が不足しがちなDXプロジェクトにおいては有効な手段となり得ます。さらに、この制度は地方創生関係交付金と併用することも可能です 24。
4.2. ガバメントクラウドファンディングによる市民参加型資金調達
ガバメントクラウドファンディング(GCF)は、地方自治体が特定の事業やプロジェクトの資金を、ふるさと納税の仕組みを活用してインターネット上で不特定多数の個人から調達する手法です 8。共感を呼ぶプロジェクトであれば、市外からも含めて多くの支援を集めることが可能です。
実施手法、デジタル化プロジェクト事例、八潮市での展開案
GCFの成功事例としては、複数の自治体が連携した奄美・沖縄の世界自然遺産保護プロジェクト 21 や、東京都目黒区が新型コロナウイルス感染症対策の最前線に立つ医療従事者支援のために実施した「心にさくらプロジェクト」 27 などがあります。これらの事例からは、明確な目的、共感を呼ぶストーリー、そして寄付者への感謝の気持ちを伝える丁寧なコミュニケーションが重要であることがわかります。
特に注目すべきは、長野県山ノ内町が「『書かない役場』『行かない役場』などデジタル化を目指す」ことを掲げてGCFを実施した事例です 21。これは、八潮市が目指すデジタル改革の方向性と合致しており、市民生活の利便性向上に直結するDXプロジェクトは、GCFのテーマとして親和性が高いことを示唆しています。
八潮市でGCFを展開する場合、以下のようなプロジェクトが考えられます。
- 市民向け新デジタルサービスの開発: 例えば、子育て情報アプリ、地域イベント情報共有プラットフォーム、高齢者向けデジタル活用支援プログラムなど、市民のニーズが高い特定のサービス開発費用を募る。
- 歴史的資料のデジタルアーカイブ化: 市の貴重な歴史的資料や文化財をデジタル化し、オンラインで公開するための費用。
- 地域コミュニティ活性化のためのICT環境整備: 公民館や地域センターにWi-Fi環境やオンライン会議システムを整備し、市民活動を支援するための費用。
GCFは、単に資金を集めるだけでなく、プロジェクトに対する市民の関心と参加意識を高め、行政と市民が一体となって地域課題の解決に取り組む機運を醸成する効果も期待できます。プロジェクトの企画段階から市民の意見を取り入れたり、進捗状況をきめ細かく発信したりすることで、より多くの共感と支援を得ることができるでしょう。
4.3. PPP/PFI方式を活用したデジタルインフラ整備・運営
PPP(Public-Private Partnership:官民連携)やPFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用事業)は、公共施設等の整備・運営に民間の資金、経営能力、技術的能力を活用する手法です。大規模な初期投資が必要となるデジタルインフラの整備や、専門的なノウハウが求められるシステムの運用において、有効な選択肢となり得ます。
提供された資料では、宿泊施設、グランピング施設、スポーツ施設といった物理的なハコモノに関するPPP/PFIの事例 28 が主であり、純粋なデジタルインフラに関する直接的な事例は見当たりませんでした。しかし、これらの事例で用いられているコンセッション方式(公共施設等運営権方式)や賃貸借方式、RO方式(改修・運営方式)といった手法の原理は、デジタルインフラにも応用可能です。
例えば、以下のようなケースでPPP/PFIの活用が考えられます。
- 市全域をカバーする公衆Wi-Fi網の整備・運営: 民間事業者がWi-Fi網を整備し、広告収入や有料サービスで収益を上げつつ、市は一定の利用料を支払う、あるいは公共サービスとしての無料アクセスポイントを提供する。
- 地域情報プラットフォーム(都市OS)の構築・運用: 民間事業者がデータ連携基盤を構築・運用し、市や地域事業者がその上で様々なサービスを展開する。
- スマートシティ関連センサーネットワークの整備・維持管理: 防災、交通、環境監視などのためのセンサーネットワークを民間事業者が整備・維持管理し、市はそのデータを利用する。
PPP/PFIのメリットは、市の初期財政負担の軽減、民間の効率的な事業運営ノウハウの活用、リスクの官民分担などが挙げられます。一方で、契約内容が複雑で長期にわたるため、事前の十分な調査・検討、適切な事業者選定、契約後のモニタリングが不可欠です。特にデジタル分野は技術革新のスピードが速いため、契約期間中の技術陳腐化リスクや、仕様変更への柔軟な対応といった点に留意が必要です。八潮市が大規模なデジタルインフラ整備を検討する際には、先進自治体の事例を調査し、専門家の助言を得ながら、慎重に可能性を探るべきでしょう。
4.4. 地方債の有効活用(特にデジタル活用推進事業債)
地方債は、大規模な投資的経費の財源として、世代間の負担の公平化を図るために活用されるものです。特にデジタル改革においては、初期投資が大きく、かつ効果が長期にわたる事業が多いため、地方債の戦略的な活用が重要となります。
注目すべきは、令和7年度の地方財政対策に向けて創設が検討されている「デジタル活用推進事業債」です 30。この地方債は、自治体DXや地域社会のDX(例:オンライン診療、スマート農業など)に要する初期経費に充当することが想定されており、充当率90%、後年度の元利償還金に対する交付税措置率50%という、非常に有利な財政措置が講じられる見込みです 30。これは、国が地方のデジタル化・DX化を強力に推進しようとする強い意志の表れと言えます。
八潮市としては、この「デジタル活用推進事業債」を最大限に活用し、以下のような基盤的なDX投資を進めることが考えられます。
- 老朽化した庁内ネットワークインフラの全面刷新
- セキュリティ強靭化のための統合基盤整備
- 市民向けオンラインサービスの抜本的拡充のためのシステム開発
- データ利活用推進のためのデータ連携基盤(都市OS等)構築
ただし、30でも指摘されている通り、「有利な財源があるからといって不要な事業をしないように」という点は肝に銘じる必要があります。あくまでも、八潮市のデジタル改革戦略に基づき、真に必要な事業を特定した上で、その財源としてこの有利な地方債を活用するという順序が重要です。
また、総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業」の補助事業(インフラ整備補助)では、自治体負担分(1/2)について地方債を起債できるとされています 14。このように、国の補助金と地方債を組み合わせることで、実質的な財政負担をさらに軽減することも可能です。
4.5. 市有資産(遊休資産、広告枠等)の収益力強化
市の保有する資産を有効活用し、新たな財源を生み出すことも検討すべきです。
遊休資産の売却・貸付
八潮市が保有する未利用の土地や建物(遊休資産)が存在する場合、これらを売却または貸し付けることで収益を得ることができます 31。売却収入は一時的なものですが、デジタル改革のための基金に積み立てるなど、計画的な活用が可能です。貸付の場合は、継続的な賃料収入が期待できます。遊休資産の洗い出しと市場価値評価を行い、民間ニーズとのマッチングを図ることが重要です。
広告事業の拡大
八潮市は既に「広報やしお」や市ホームページへの有料広告掲載事業を実施しています 33。また、草加八潮消防組合もホームページでのバナー広告を募集しています 22。これらの既存の取り組みをさらに拡大・強化することで、歳入増を図ることができます。
具体的な拡大策としては、以下のようなものが考えられます。
- 市ホームページの広告枠の増設や、より目立つ位置への配置変更
- 市の公共施設(例:庁舎内のデジタルサイネージ、公民館、スポーツ施設など)への広告媒体設置
- 市の公用車への広告掲載(条例等で許容される範囲で)
- 新たなデジタル媒体(例:市公式LINEアカウント、市民向けアプリなど)への広告導入
- 広告料金体系の見直しや、長期契約割引の導入によるインセンティブ付与
これらの取り組みにより得られた広告収入を、デジタル改革関連経費に充当することも一案です。ただし、広告内容については、市の広報媒体としての公共性や品位を損なわないよう、厳格な審査基準を維持することが不可欠です 33。既存の広告事業の収益実績を分析し、費用対効果の高い手法を優先的に検討すべきです。
4.6. 特定目的基金(例:八潮市デジタル改革推進基金)の創設と運用
デジタル改革は、単年度で完結するものではなく、中長期的な視点での継続的な投資が必要です。そのため、デジタル改革に特化した資金を安定的に確保し、計画的に執行するための仕組みとして、「特定目的基金」を創設することが有効です。仮称として「八潮市デジタル改革推進基金」のような名称が考えられます。
この基金の財源としては、以下のようなものが想定されます。
- 一般会計からの計画的な繰入金
- 国・県のDX関連補助金の一部
- 企業版ふるさと納税やガバメントクラウドファンディングによる寄付金 8
- 市有資産の売却収入や広告事業収入の一部
- その他、民間企業や市民からの寄付金 34
基金を設置することにより、以下のようなメリットが期待できます。
- 財源の安定確保: 年度ごとの予算編成の影響を受けにくく、中長期的な視点でのDXプロジェクトの計画・実行が可能になります。
- 使途の明確化と透明性の向上: 基金の設置目的や使途を条例で明確にすることで、デジタル改革への資金が確実に充当されることを内外に示すことができ、市民や議会に対する説明責任も果たしやすくなります。
- 弾力的な財政運営: 単年度会計の原則に縛られず、複数年度にわたる事業への対応や、突発的な資金需要にも柔軟に対応しやすくなります。
- 外部資金獲得への好影響: 市がデジタル改革に本腰を入れて取り組んでいる姿勢を明確に示すことで、国や企業からの補助金・寄付金などを獲得しやすくなる可能性があります。
基金の設置・運用にあたっては、蕨市の例規集 35 のように、八潮市においても条例を制定し、基金の目的、積立・処分のルール、管理体制などを定める必要があります。この基金が、八潮市のデジタル改革を力強く推進するための財政的エンジンとなることが期待されます。
Table 2: 代替財源調達手法の比較検討
財源調達手法 | 主な資金源 | 八潮市の主なメリット | 主要な検討事項/課題 | 主なDXプロジェクト適用例 | 参照資料 |
企業版ふるさと納税 | 企業 | 企業の税負担軽減効果大、CSR・SDGs連携、新たな官民連携構築 | プロジェクトの魅力度、企業への効果的なPR、返礼品提供不可 | 特定の革新的DXプロジェクト、人材派遣型での専門家活用、地域課題解決型DX | 8 |
ガバメントクラウドファンディング (GCF) | 個人(市民等) | 市民参加・共感の醸成、ニッチな事業への資金調達、市のPR効果 | プロジェクトの共感性、目標金額設定、リターン設計(非金銭的)、事務負担 | 市民向け新サービス開発、デジタルアーカイブ化、コミュニティ支援ICT整備 | 8 |
PPP/PFI方式 | 民間事業者・投資家 | 初期財政負担軽減、民間のノウハウ活用、リスク分担 | 契約の複雑性、長期契約、技術陳腐化リスク、適切な事業者選定 | 大規模デジタルインフラ(Wi-Fi網、都市OS等)、専門的運用が必要なシステム | 28 |
地方債(特にデジタル活用推進事業債) | 債券市場 | 大規模投資の財源平準化、有利な条件(デジタル活用推進事業債の場合:充当率90%、交付税措置50%) | 事業の真の必要性吟味、将来の償還負担、起債計画 | 基幹システム刷新、庁内ネットワークインフラ整備、データ連携基盤構築 | 14 |
市有資産活用(遊休資産売却・貸付、広告事業) | 不動産市場、広告主 | 未利用資産の収益化、継続的な収入確保(貸付・広告) | 遊休資産の特定・評価、市場ニーズ把握、広告内容の公共性維持 | デジタル改革基金への繰入、小規模DX経費、運用コスト補填 | 22 |
特定目的基金創設 | 一般会計、各種寄付金、補助金等 | 財源の安定確保、使途明確化、弾力的財政運営、外部資金獲得促進 | 基金条例制定、積立・運用ルール策定、適切な管理体制 | あらゆるDXプロジェクトの安定的財源、複数年度事業への対応 | 8 |
第5部:総合的提言と実行に向けた戦略的アプローチ
これまでの調査・分析を踏まえ、八潮市がデジタル改革を効果的かつ持続的に推進していくための財源確保に関する総合的な提言と、その実行に向けた戦略的アプローチを以下に示します。
5.1. 八潮市のデジタル改革特性に応じた最適財源ポートフォリオ案
八潮市が目指すデジタル改革の具体的な内容(例:市民サービスの抜本的向上、行政内部の徹底的な効率化、データ駆動型政策決定の実現、スマートシティ構想の一部導入など)に応じて、複数の財源を組み合わせた最適なポートフォリオを構築することが肝要です。単一の財源に依存するのではなく、プロジェクトの性質、規模、緊急度、期待される効果などに応じて、最も適した資金調達手段を選択し、組み合わせることで、財政的リスクを分散し、改革の推進力を最大化できます。
例えば、以下のような組み合わせが考えられます。
- 基幹的インフラ整備・大規模システム更新:
- 主たる財源: デジタル活用推進事業債 30(有利な起債条件を活用)、総務省の自治体情報システム標準化・共通化支援 13。
- 補完的財源: 地域デジタル基盤活用推進事業(補助事業)14(地方債との併用)。
- 市民向け新サービス開発・オンライン手続き拡充:
- 主たる財源: デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE1、TYPE2、TYPE3など)7。
- 補完的財源: ガバメントクラウドファンディング 21(特に市民の共感を得やすいプロジェクト)、企業版ふるさと納税 23(先進的・モデル的な取り組み)。
- 特定分野の専門的ソリューション導入(例:スマート農業、遠隔医療支援、AI活用防災):
- 主たる財源: 各省庁の専門分野別補助金 9、企業版ふるさと納税 23(企業の専門性や関心と合致する場合)。
- 補完的財源: 地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業)14。
- DX推進のための計画策定・人材育成・調査研究:
- 主たる財源: 地域デジタル基盤活用推進事業(計画策定支援)14(専門家派遣)、埼玉県DX推進支援ネットワークの研修プログラム 17。
- 補完的財源: 一般財源、特定目的基金からの支出。
- 継続的な運用経費・小規模改善:
- 主たる財源: 一般財源、市有資産活用(広告収入等)33、特定目的基金からの支出。
このように、多様な財源を戦略的に組み合わせることで、それぞれの財源の特性(補助率、対象経費、申請時期、自由度など)を活かし、八潮市のデジタル改革全体の資金調達を最適化することが可能になります。重要なのは、特定の大型補助金に過度に依存するのではなく、常に複数の選択肢を持ち、状況に応じて柔軟に財源を確保できる体制を構築することです。
5.2. 短期・中期・長期の財源確保アクションプラン
多様な財源を効果的に確保するためには、時間軸を意識した段階的なアクションプランが必要です。
- 短期(今後12ヶ月以内):
- 即応可能な補助金申請: 総務省の「地域デジタル基盤活用推進事業」における「計画策定支援」 14 に速やかに応募し、専門家の助言を得て具体的なDXプロジェクト計画を策定する。並行して、デジタル田園都市国家構想交付金の「優良モデル導入支援型(TYPE1)」7 など、比較的早期に成果が見込めるタイプの公募情報を確認し、準備を進める。
- 既存収入源の最適化: 市ホームページや広報誌の広告事業 33 の収益性を見直し、改善策(料金改定、掲載枠拡大等)を実施する。遊休資産の洗い出しと評価を開始する。
- 情報収集体制の確立: 国・県の補助金情報を網羅的に収集・共有する庁内体制(担当者、情報共有ツール等)を整備する。埼玉県DX推進支援ネットワーク 17 の情報を定期的にチェックする。
- パイロット的GCFの検討: 市民の関心が高い小規模なDXプロジェクト(例:特定の市民サービスのオンライン化)を選定し、ガバメントクラウドファンディング 21 の試行的実施を検討する。
- 中期(1~3年後):
- 大型補助金への本格申請: 短期で策定したDXプロジェクト計画に基づき、デジタル田園都市国家構想交付金(TYPE2, TYPE3, TYPE Sなど)7 や、総務省の地域デジタル基盤活用推進事業(実証事業、補助事業)14 への本格的な申請準備を行う。
- 企業版ふるさと納税の基盤構築: 市のDX戦略や具体的なプロジェクトを企業に魅力的に伝えるための資料を作成し、市内外の企業へのアプローチを開始する。経済団体等との連携を強化する。
- デジタル活用推進事業債の活用準備: 国の動向を注視し、デジタル活用推進事業債 30 の具体的な制度設計が固まり次第、活用対象となる大規模プロジェクトの計画を具体化し、起債準備を進める。
- 特定目的基金の設立: 「八潮市デジタル改革推進基金(仮称)」設立のための条例案を作成し、議会への提案準備を進める。
- 近隣自治体との連携協議: 共通課題を持つ近隣自治体と、DX分野での共同事業や共同申請の可能性について具体的な協議を開始する。
- 長期(3年後以降):
- 特定目的基金の本格運用と拡充: 設立した基金への安定的収入確保(一般会計からの繰入、各種寄付金の受入等)と、効果的な運用体制を確立する。
- PPP/PFIの導入検討: 大規模なデジタルインフラ整備等について、民間活力導入のフィージビリティスタディを実施し、必要に応じてPPP/PFI手法の導入を検討する。
- 財源戦略の継続的見直し: 社会経済情勢の変化、技術動向、国の政策変更などを踏まえ、財源ポートフォリオやアクションプランを定期的に見直し、最適化を図る。
- 成果の発信と好循環の創出: デジタル改革の成果を積極的に発信し、市民満足度の向上や企業からの評価を高めることで、さらなる寄付や投資を呼び込む好循環を創り出す。
このアクションプランはあくまで一例であり、八潮市の具体的な状況や優先順位に応じて柔軟に見直す必要があります。重要なのは、短期的な成果を追求しつつ、中長期的な視点での安定的な財源確保体制を構築していくことです。
5.3. 財源戦略とデジタル改革推進体制の有機的連携強化策
効果的な財源確保は、優れたデジタル改革プロジェクトの企画立案と表裏一体です。両者を組織的に連携させるための体制構築が不可欠となります。
- 専門チーム・担当者の設置:
- 企画財政部局と情報システム担当部局、さらには各事業所管部局の担当者から成る横断的な「DX財源戦略チーム」を設置するか、あるいは専門の担当者を配置することを推奨します。
- このチーム・担当者の役割は、(1) 国・県等の補助金情報の常時収集・分析、(2) DXプロジェクトと補助金要件のマッチング支援、(3) 補助金申請書類作成支援・進捗管理、(4) 企業版ふるさと納税やGCF等の企画・推進、(5) 特定目的基金の管理運営などです。
- DXプロジェクト企画段階からの財源意識の徹底:
- 新たなDXプロジェクトを企画する初期段階から、想定される財源について検討することを必須とします。プロジェクトの目的、規模、スケジュールに合わせて、どのような財源が活用可能か、そのための要件は何かを早期に把握することで、手戻りを防ぎ、採択率の高い申請に繋げます。
- 情報共有とノウハウ蓄積の仕組み化:
- 獲得した補助金の種類、申請プロセス、成功・失敗事例、審査のポイントなどの情報を庁内で共有し、ノウハウとして蓄積する仕組み(例:庁内ポータルサイト、定期的な情報交換会)を構築します。これにより、属人的なスキルに頼らず、組織全体として財源獲得能力を向上させます。
- 外部専門家・ネットワークの活用:
- 補助金申請やPPP/PFI導入など、専門性の高い分野については、コンサルタント等の外部専門家を積極的に活用します。また、埼玉県DX推進支援ネットワーク 17 や他自治体との連携を通じて、最新情報や成功事例を学び続ける姿勢が重要です。
- 市長・副市長等トップ層のリーダーシップ:
- 特に企業版ふるさと納税の獲得や、省庁への大型補助金要望などにおいては、市長や副市長といったトップ層による積極的な働きかけ(トップセールス)が効果を発揮する場合があります。デジタル改革と財源確保の重要性をトップが強く認識し、リーダーシップを発揮することが求められます。
これらの施策を通じて、八潮市のデジタル改革推進体制と財源戦略が一体となって機能することで、計画的かつ持続的なデジタル改革の実現可能性が飛躍的に高まります。
Table 3: 八潮市向け推奨財源活用マトリクス
八潮市DXプロジェクト分類例 | デジタル田園都市国家構想交付金 | 総務省 自治体情報システム標準化・共通化支援 | 総務省 地域デジタル基盤活用推進事業 | 埼玉県DX推進支援ネットワーク | 企業版ふるさと納税 | ガバメントクラウドファンディング(GCF) | デジタル活用推進事業債 | 市有資産活用(広告・遊休資産) |
1. 基幹業務システム刷新・標準化 | TYPE S (デジタル行財政改革) | ◎ (最優先) | 補助事業 (インフラ関連) | 情報収集、専門家相談 | △ (大規模すぎる可能性) | × | ◎ (最優先) | △ (財源の一部) |
アクションポイント | 国の標準化動向注視、計画策定 | 早期に計画提出 | ネットワークインフラ更新と併せて検討 | 最新技術動向の情報収集 | 制度詳細発表後、速やかに計画 | 基金への積立原資 | ||
2. 市民向けオンラインサービス拡充 (申請、届出、相談等) | ◎ (TYPE1, TYPE2, TYPE3) | 計画策定支援、実証事業 | 優良事例の情報収集、DXパートナー連携 | 〇 (先進的・モデル事業) | ◎ (市民ニーズ高いもの) | 〇 (大規模開発の場合) | △ (運用費の一部) | |
アクションポイント | マイナンバーカード活用、優良モデル導入検討 | まず計画策定支援活用 | 県内他市事例調査 | 企業CSRと連携した提案 | 具体的なサービスで共感を呼ぶ | |||
3. スマートシティ基盤整備 (公共Wi-Fi、センサー網、都市OS等) | TYPE2 (データ連携基盤) | ◎ (補助事業、実証事業) | ソリューション事業者紹介 | 〇 (特定エリアでの実証等) | △ (大規模すぎる可能性) | ◎ (広域整備の場合) | △ (設置場所提供等) | |
アクションポイント | 長期的視点での計画策定 | ローカル5G等新技術も視野、地方債活用 | 技術的アドバイス | |||||
4. デジタルデバイド対策・市民リテラシー向上 | △ (間接的に関連) | 計画策定支援 | 研修プログラム活用 | 〇 (企業の社会貢献として) | 〇 (高齢者向け教室等) | △ (ソフト事業中心なら対象外の可能性) | △ (広報費等) | |
アクションポイント | 他事業と組み合わせ | 安価な講座受講 | ||||||
5. 地域経済・市内事業者DX支援 | TYPE1 (商店街DX等) | 計画策定支援 | 中小企業支援策情報、DXパートナー連携 | ◎ (地域貢献意識高い企業へ) | 〇 (特定商店街応援等) | 〇 (産業振興関連施設整備伴う場合) | △ (広報協力等) | |
アクションポイント | 戸田市事例 20 参考 | |||||||
6. データ利活用・EBPM推進基盤 | TYPE2 (データ連携基盤) | 計画策定支援、実証事業 | 専門家相談、研修 | △ (成果が見えにくい可能性) | × | 〇 (分析ツール導入等) | × | |
アクションポイント | ||||||||
7. 庁内業務効率化・ペーパーレス化 | TYPE S (デジタル行財政改革) | 計画策定支援 | 優良事例の情報収集 | △ | △ | 〇 (RPA導入等) | △ (運用費の一部) | |
アクションポイント |
(凡例: ◎ 最適/優先度高、 〇 適合/検討可、 △ 限定的に適合/補完的、 × 不適合/優先度低)
注:本マトリクスは一般的な適合性を示すものであり、個別の事業内容や公募要領によって実際の適合性は変動します。
結論
多様な財源活用の可能性と八潮市デジタル改革の未来展望
本報告書を通じて明らかになったように、八潮市がデジタル改革を推進する上で活用し得る財源は、従来の市税収入や一般的な地方交付税に留まらず、極めて多岐にわたっています。国の強力な後押しを受けるデジタル田園都市国家構想交付金や総務省の各種支援策、埼玉県によるDX推進ネットワーク、そして企業版ふるさと納税やガバメントクラウドファンディングといった革新的な資金調達手法、さらには新たに創設が見込まれる有利な地方債制度など、戦略的にアプローチすることで獲得可能な資金源は豊富に存在します。
これらの多様な財源を効果的に活用するためには、八潮市自身の明確なデジタル改革ビジョンと、それに基づいた具体的なプロジェクト計画が不可欠です。そして、それぞれの財源の特性を深く理解し、プロジェクトの性質や規模に応じて最適なものを選択・組み合わせる「財源ポートフォリオ」の考え方が重要となります。また、短期・中期・長期の視点を持ったアクションプランを策定し、計画的に財源確保に取り組むとともに、財源戦略とDX推進体制を有機的に連携させる組織的な努力も求められます。
八潮市がこれらの提言を実行に移し、積極的に多様な財源の獲得に努めるならば、デジタル改革の推進に必要な財政的基盤は格段に強化されるでしょう。それは、市民サービスの飛躍的な向上、行政運営の効率化、そして新たな地域価値の創造へと繋がり、「住みやすさナンバー1のまち 八潮」の実現を大きく後押しするものと確信します。
デジタル改革の成功は、単に最新技術を導入することによってのみ達成されるものではありません。その基盤となるのは、賢明かつ持続可能な財政計画であり、市民、企業、そして行政が一体となって未来を切り拓こうとする強い意志です。本報告書が、八潮市の輝かしいデジタル改革の未来に向けた、確かな一歩となることを心より期待します。
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