弁護士なしで発信者情報開示請求を自分で行うための完全ガイド

1. はじめに:発信者情報開示請求とは?自分でできる?

インターネット上での匿名による誹謗中傷やプライバシー侵害は、多くの方にとって深刻な問題です。このような権利侵害に対して、泣き寝入りするしかないのでしょうか?いいえ、加害者を特定し、法的な責任を追及するための手段が存在します。その一つが「発信者情報開示請求(はっしんしゃじょうほうかいじせいきゅう)」です。

発信者情報開示請求とは、その目的

発信者情報開示請求とは、インターネット上で匿名で行われた投稿などによって自己の権利を侵害されたとする者が、プロバイダ(サイト運営者やインターネット接続業者など)に対して、その投稿を行った発信者(加害者)の氏名、住所、メールアドレス、IPアドレスといった個人情報の開示を求める法的な手続きです 1

この手続きの主な目的は、匿名で隠れている加害者を特定し、その情報に基づいて投稿の削除要求、損害賠償請求、場合によっては刑事告訴といった法的措置を講じることにあります 2。加害者が特定できれば、直接交渉や裁判を通じて、受けた被害の回復や再発防止を求めることが可能になります。

プロバイダ責任制限法と2022年の重要な改正

この発信者情報開示請求の根拠となるのが、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」、通称「プロバイダ責任制限法(プロバイダせきにんせいげんほう)」です 1

特に重要なのは、2022年10月1日に施行された改正プロバイダ責任制限法です。この改正により、いくつかの大きな変更点がありました。最も注目すべきは、「発信者情報開示命令(はっしんしゃじょうほうかいじめいれい)」という新たな裁判手続き(非訟手続)が創設されたことです 1。これは、従来よりも迅速かつ効率的に発信者を特定することを目的としています。

従来の制度では、発信者を特定するために、まずウェブサイトやSNSの運営者(コンテンツプロバイダ)に対してIPアドレスなどの開示を求め、次にそのIPアドレスから判明した経由プロバイダ(アクセスプロバイダ)に対して契約者の氏名や住所の開示を求めるという、複数の裁判手続きが必要となることが多く、時間と手間がかかるという課題がありました 1。特に、SNSなどのログは数ヶ月(場合によっては1~2ヶ月 1)で消去されてしまうため、手続きが長引く間に証拠が失われ、特定に至らないケースも少なくありませんでした。この改正は、このような問題を解決し、被害者救済をより迅速に進めるために導入された背景があります。

その他の改正点としては、開示請求の対象となる情報が拡大され、SNSのログイン時の情報なども請求可能になったこと 1、そして、プロバイダが発信者(投稿者)に情報開示の同意を求める「意見照会」の際に、発信者が開示を拒否した場合、その理由も聴取することが義務付けられたことなどが挙げられます 1

本当に自分でできるのか?可能性とメリット・デメリット

「弁護士に依頼せずに、本当に自分で発信者情報開示請求ができるのだろうか?」と疑問に思われるかもしれません。結論から言えば、法律上、権利を侵害された本人やその代理人(未成年者の場合は親権者など 2)が、弁護士を介さずにこの手続きを進めることは可能です 1

  • メリット:費用の大幅な節約最大のメリットは、弁護士費用の発生を抑えられる点です 7。発信者情報開示請求を弁護士に依頼した場合、数十万円以上の費用がかかることも珍しくありませんが、自分で行えば、裁判所に納める実費(収入印紙代や郵便切手代など)のみで済む可能性があります。
  • デメリット(リスクと困難性):
    • 法的な専門知識の必要性: 開示請求が認められるためには、どの権利がどのように侵害されたのかを法的に構成し、証拠に基づいて裁判所に説得力のある主張を行う必要があります 1。法律の知識がない場合、この点が最も大きなハードルとなります。
    • 時間との戦い(ログ保存期間): プロバイダは、発信者の特定に不可欠な通信ログ(IPアドレスやタイムスタンプなど)を永久に保存しているわけではありません。一般的に、ログの保存期間は3ヶ月から6ヶ月程度とされています 2。手続きに手間取ってこの期間を過ぎてしまうと、ログが消去され、発信者の特定が不可能になるという取り返しのつかない事態になりかねません。これは単なる遅延ではなく、多くの場合、その特定手段が永久に失われることを意味します。この「時間との戦い」は、自分で行う上で極めて重要な注意点です。
    • 手続きの煩雑さ: 裁判所の手続きは、たとえ2022年の改正で新設された「簡略化された」発信者情報開示命令であっても、提出書類の準備や様式の遵守など、厳格なルールが存在します。書類の不備は、申立ての却下や大幅な遅延につながる可能性があります 2。一般社団法人テレコムサービス協会が提供する「テレサ書式」や、東京地方裁判所が提供する「スマートフォーマット」のような公式な書式テンプレートの存在 7 は、個人での手続きをある程度想定していることを示唆しますが、同時に、これらの書式を正確に用いることの重要性も物語っています。
    • 成功率の問題: 自分で行った場合の成功率に関する公的な統計は乏しいですが、専門の弁護士に依頼した場合と比較して、成功率が低下する可能性は否定できません。ある法律事務所の事例では、専門チームが対応した場合の成功率が約70%と報告されています 18。これは、法的知識や経験の差が結果に影響しうることを示唆しています。
    • 精神的な負担: 法的手続きは、それ自体が精神的なストレスを伴うものです。加えて、権利侵害の被害に遭っている状況で、不慣れな手続きをご自身で進めることは、大きな精神的負担となる可能性があります。

発信者情報開示請求を自分で行うことは、費用を抑えられる大きなメリットがある一方で、上記のようなリスクや困難も伴います。このガイドでは、これらの点を踏まえ、できる限り分かりやすく、具体的な手順を解説していきます。

2. ステップ1:準備編 – 開示請求の前に必ず確認すべきこと

発信者情報開示請求を成功させるためには、事前の準備が極めて重要です。特に、請求の法的要件を満たしているか、そして何よりも証拠が確実に保全されているかを確認する必要があります。

開示請求の主な要件 1

発信者情報開示請求が認められるためには、プロバイダ責任制限法に定められた以下の要件をすべて満たす必要があります。

  • 特定電気通信による情報の流通であること: 権利侵害情報が、インターネット上の掲示板、SNS、ブログなど、不特定多数の人が閲覧可能な形で発信されていることが必要です 1
  • 権利を侵害されたことが明白であること: これが最も重要かつ難しい要件の一つです。単に「不快だ」「気分を害した」というだけでは不十分で、具体的にどの権利(名誉権、プライバシー権など)が、どのように侵害されたのかを客観的な証拠に基づいて明確に主張・立証する必要があります 1
    • 権利の例:
      • 名誉毀損(めいよきそん): 具体的な事実を摘示して社会的評価を低下させるような投稿(例:「○○氏は前科がある」など)。
      • 侮辱(ぶじょく): 事実を摘示せず、公然と人を侮辱するような投稿(例:「○○は無能だ」など)。
      • プライバシー権侵害: 他人にみだりに知られたくない私生活上の事実を公開するような投稿(例:個人の住所、電話番号、病歴などの無断公開)。
      • 著作権侵害: 著作物を無断でアップロードする行為など。
    • 同定可能性(どうていかのうせい): 投稿内容が、客観的に見て請求者本人に関するものであると特定できることが必要です 7。ハンドルネームや匿名であっても、状況から本人と結びつけられる場合は同定可能性が認められることがあります。この「権利侵害の明白性」の立証は、法律の専門家でない方にとっては特に困難な点であり、請求が認められない大きな理由の一つとなり得ます。
  • 開示を受けるべき正当な理由があること: 開示された情報をどのような目的で使用するのか、その目的に正当性がなければなりません。通常は、損害賠償請求や差止請求(投稿削除など)といった法的措置を講じるため、という理由がこれにあたります 1。個人的な復讐や、単に相手を困らせるためといった理由は正当な理由とは認められません。
  • 請求先が「開示関係役務提供者」に該当すること: 請求の相手方が、問題の情報の流通に関与したサイト運営者(コンテンツプロバイダ)や、発信者が利用したインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)など、法律上の「開示関係役務提供者」である必要があります 1
  • 請求する情報が「発信者情報」に該当すること: 開示を求める情報が、法律で定められた「発信者情報」(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、タイムスタンプなど)の範囲内である必要があります 1
  • 請求先が当該発信者情報を保有していること: 当然ながら、請求先のプロバイダが問題の情報を保有していなければ、開示を受けることはできません 1

最重要ステップ:証拠の保全方法 2

権利侵害の証拠は、発信者情報開示請求の生命線です。投稿者が投稿を削除したり、サイト運営者が何らかの理由で情報を消去したりする可能性があるため、発見次第、速やかに以下の方法で証拠を保全してください。

  • スクリーンショットの撮影:
    • 権利侵害のある投稿内容そのもの: 投稿の全文が明確に写るように撮影します。
    • URLの全体像: ブラウザのアドレスバーに表示される完全なURL(問題の投稿が掲載されている個別ページのURL。サイトのトップページではありません 7)が写るように撮影します。これは非常に重要です。
    • 投稿日時(タイムスタンプ): 投稿が表示されている日時が明確にわかるようにします。
    • 投稿者の情報: 投稿者のユーザー名、アカウント名、プロフィールページのURLなどもスクリーンショットで保存します 5
    • 前後の文脈: 問題の投稿がスレッドの一部である場合など、前後の投稿との関連性が権利侵害の立証に役立つ場合は、それらも合わせて保存します 23
    • PCでの撮影推奨: スマートフォンのスクリーンショットではURLが省略されたり、必要な情報が全て収まらなかったりすることがあるため、可能であればパソコンのブラウザで表示して撮影することが望ましいです 9
  • 印刷: ウェブページをURLが表示される形で印刷しておくことも有効な証拠となります 7
  • HTMLソースの確認(必要な場合): Instagramなど一部のプラットフォームでは、正確な投稿日時を特定するためにHTMLソースの確認が必要になる場合があります 22

これらの証拠は、プロバイダや裁判所に対して、いつ、どこで、どのような権利侵害があったのかを具体的に示すために不可欠です。もし投稿が削除されてしまった場合、これらの保存された証拠が唯一の頼みの綱となります 3。証拠の収集は、単に「あった」ことを示すだけでなく、後の法的手続きでプロバイダが正確なログを特定するための鍵となります。URLやタイムスタンプが不正確であれば、たとえログが存在していても見つけ出せない可能性があるため、細心の注意が必要です 7

ログ保存期間の理解:時間との戦い

発信者情報開示請求は、時間との戦いです。なぜなら、発信者の特定に繋がる通信ログ(IPアドレス、タイムスタンプなど)は、プロバイダによって保存期間が限られているからです。

  • コンテンツプロバイダ(SNS運営者、掲示板管理人など)のログ保存期間は、比較的短い傾向があり、SNSなどでは1~3ヶ月程度 1、一般的には3~6ヶ月程度と言われています 2
  • アクセスプロバイダ(インターネット接続業者、携帯キャリアなど)のログ保存期間も、同様に3~6ヶ月程度が一般的です 2

この保存期間を過ぎてしまうと、ログは消去され、発信者の特定はほぼ不可能になります 2。発信者情報開示請求の手続き全体には数ヶ月を要することもあるため 3、権利侵害を発見したら、一日も早く手続きに着手することが成功の鍵となります。一部では、投稿から3週間以内にはIPアドレスの開示請求に着手すべきとの意見もあります 12

このログ保存期間の短さは、請求者にとって大きなプレッシャーとなります。慎重かつ正確な法的書類の準備が求められる一方で、時間をかけすぎると証拠そのものが失われてしまうというジレンマがあるのです。このため、2022年の法改正で導入された「発信者情報開示命令」と同時に申し立てることができる「消去禁止命令(しょうきょきんしめいれい)」 1 は、この時間との戦いにおいて非常に重要な意味を持ちます。

3. ステップ2:実践編 – 発信者情報開示請求の具体的な手順

準備が整ったら、いよいよ発信者情報開示請求の実行に移ります。主な方法として、プロバイダに対する任意の開示請求と、裁判所を通じた法的手続きの2つがあります 1。任意開示請求は簡便ですが成功率は低く、多くの場合、裁判手続きが必要となります。ここでは、特に2022年の法改正で中心的な役割を担うようになった「発信者情報開示命令」に焦点を当てて解説します。

ルートA:任意開示請求 – 最初の試み(任意だが、時に先行して行われる)

裁判手続きを経ずに、サイト運営者(コンテンツプロバイダ、以下CP)や経由プロバイダ(アクセスプロバイダ、以下AP)に直接、情報開示を求める方法です。

  • コンテンツプロバイダ(CP)への請求2
    • 目的: 権利侵害投稿に関連するIPアドレス、ポート番号、タイムスタンプの開示を求める。CPは通常、投稿者の実名や住所までは把握していません 7
    • 請求書の作成:
      • 「発信者情報開示請求書」を使用します。
      • 一般社団法人テレコムサービス協会が提供する「テレサ書式」が標準的なひな形として利用できます 7。これは、プロバイダ責任制限法関連情報ウェブサイト(www.isplaw.jp)からダウンロード可能です 7
      • 主な記載事項7参照):
        • 権利侵害投稿の具体的なURL 7
        • 権利侵害情報の内容(コピー&ペーストまたは別紙添付)。
        • 侵害された権利(例:名誉権)。
        • 権利が明白に侵害されたとする具体的な理由。
        • 開示を受けるべき正当な理由(例:「損害賠償請求権の行使のため」7)。
        • 請求する発信者情報(CPに対してはIPアドレス、ポート番号、タイムスタンプなど 7)。
        • 証拠(スクリーンショットなど。プロバイダ用と、プロバイダが発信者に意見照会する際の提示用の2部を用意することが推奨されます 14)。
        • 発信者に自己の個人情報を開示したくない場合はその旨を記載 7
    • 請求書の送付: 通常、内容証明郵便など記録の残る方法で送付します。
    • CPの対応: 多くの場合、CPは「意見照会(いけんしょうかい)」として、投稿したとされる発信者に対し、情報開示に同意するかどうかを確認します 1。発信者には通常2週間程度の回答期間が与えられます 27
    • 成功の可能性: 極めて低いです。発信者が同意するか、権利侵害が極めて明白で悪質な場合を除き、CPが任意開示に応じることは稀です 1
  • アクセスプロバイダ(AP)への請求2
    • 前提条件: CPからIPアドレスとタイムスタンプの開示を首尾よく受けられた場合に限ります。
    • APの特定: 開示されたIPアドレスを基に、オンラインのIPアドレス検索ツールなどを用いて、そのIPアドレスを管理するAP(ISPや携帯キャリアなど)を特定します。
    • 目的: 特定された日時にそのIPアドレスを使用していた契約者の氏名、住所、メールアドレスなどの開示を求める。
    • 請求書の作成: CPへの請求と同様に「発信者情報開示請求書」(テレサ書式)を用いますが、請求する情報を契約者情報に変更します 7
    • APの対応: APも契約者に対して意見照会を行います 1
    • 成功の可能性: 任意開示請求の場合、こちらも成功率は非常に低いです 1

ルートB:裁判手続き – より一般的で効果的な手段(2022年改正法を中心に)

任意開示が期待できない場合、裁判所を通じた手続きが必要となります。

  • 従来の方法(2022年改正前)について簡単に触れる 1従来は、CPに対するIPアドレス開示の仮処分申立て 1、APに対するログ保存の仮処分申立て 1、そしてAPに対する契約者情報開示の訴訟 1 といったように、複数の裁判手続きを段階的に行う必要がありました。これは時間と費用(特に仮処分の担保金 8)の負担が大きいものでした。
  • 新たなアプローチ(2022年10月以降):「発信者情報開示命令」 1この新しい制度は、被害者による迅速な権利回復を支援するために導入されました。
    • 性質: 「非訟手続(ひしょうてつづき)」であり、正式な訴訟よりも簡易迅速な解決を目指すものです。裁判所の判断は「判決」ではなく「決定」という形で行われます 1
    • メリット:
      • 統一されたプロセス: CPとAPへの請求を一つの大きな裁判手続きの中で処理できます(ただし、申立て自体はCPとAPそれぞれに対して行う場合もありますが、併合審理されるなど連携が図られます)1
      • 迅速性: 情報開示までの期間の大幅な短縮が期待されます 1。目安として1~4ヶ月 5、あるいは3~6ヶ月 33 とされる情報もありますが、事案により変動します。
      • 負担軽減: 一般的に、本格的な訴訟よりも手続き的な負担が軽減されます。
    • この手続きにおける主要な命令:
      • 発信者情報開示命令: CPまたはAPに対し、請求された情報の開示を命じます 1
      • 提供命令(ていきょうめいれい): CPに対し、APの名称や住所といった情報(IPアドレスから特定されるISPの情報など)を申立人に提供するよう命じます。これにより申立人はAPに対する次の手続きに進めます 1
      • 消去禁止命令(しょうきょきんしめいれい): CPおよび/またはAPに対し、係争中の関連ログを消去しないよう命じます。ログの短期保存期間を考慮すると、これは極めて重要な命令です 1。この命令を申立てと同時に行うことで、証拠隠滅のリスクを大幅に減らすことができます。
    • 新制度における手続きの詳細な流れ1などの情報を統合):
      1. CPに対する裁判所への申立て:
        • CP(例:X Corp.、Meta Platforms社など)を相手方として、「発信者情報開示命令申立書」を管轄裁判所に提出します。
        • 同時に、APの情報を得るための「提供命令」の申立ても行います。
        • 必要に応じて、CPに対する「消去禁止命令」の申立ても行います。
      2. 裁判所からCPへの命令(認容された場合):
        • 裁判所が申立てを正当と認めれば、CPに対して提供命令などを発令します。
        • CPは、IPログから特定したAPの名称・住所などを申立人に提供します(41にCPが申立人にAP情報を通知する書式例あり)。
      3. APに対する裁判所への申立て:
        • CPからAPの情報を得たら、次はそのAP(例:NTT、ソフトバンクなど)を相手方として、「発信者情報開示命令申立書」を提出します。
        • APが保有する契約者ログの保存を確実にするため、APに対する「消去禁止命令」の申立ても同時に行うことが不可欠です 9。この時点で最初の投稿から時間が経過しているため、ログ保存はより一層重要になります。
      4. APによる意見照会:
        • 申立てを受けたAPは、その契約者(発信者とされる人物)に対し、情報開示に関する意見照会を行います 1。契約者は通常2週間程度の回答期限内に意見を述べることができます 27
        • 発信者が開示に反対したとしても、裁判所が法的要件を満たしていると判断すれば、開示命令は発令されます 1。改正法では、プロバイダは発信者の拒否理由も聴取することになっています 1
      5. 裁判所からAPへの開示命令(認容された場合):
        • 裁判所は、発信者の意見も考慮した上で申立て内容を審査し、正当と認めればAPに対して「発信者情報開示命令」を発令します。
        • これを受けてAPは、契約者の氏名、住所、メールアドレスなどの情報を申立人に開示します 9
    • 新制度における申立書の準備:
      • 東京地方裁判所「スマートフォーマット」: X(旧Twitter)、Meta(Facebook、Instagram)、Google(YouTube)といった主要な海外SNSプラットフォームに対する請求は、その多くが東京地方裁判所の管轄となります 21。東京地裁民事第9部は、これらの事件処理を効率化するために「スマートフォーマット」と呼ばれる申立書テンプレートを策定・公開しています 15
        • 入手場所: 東京地方裁判所のウェブサイトからダウンロード可能です(https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html17
        • 構成内容: チェックリスト、申立書本体(Word形式)、様々なケース(CP相手、AP相手、提供命令や消去禁止命令の有無など)に応じた記載例、各種目録(発信者情報目録、投稿記事目録、主文目録など)のひな形、権利侵害の具体的事情を説明するためのExcelシートなどが含まれています 15
        • 目的: 申立書作成の負担を軽減し、記載漏れや誤りを減らし、裁判所の審査を迅速化することにあります 16。このスマートフォーマットの存在は、個人での申立てを試みる方にとって大きな助けとなりますが、それと同時に、裁判所が求める記載事項の正確性がいかに重要であるかを示唆しています。
      • その他の必要な裁判書類:
        • 証拠説明書: 提出する証拠の一覧と、それによって何を立証しようとしているのかを説明する書面です 29。裁判所のウェブサイトなどで一般的な書式が見つかる場合があります。
        • 証拠物件そのもの(スクリーンショットなど)。
        • 相手方が外国法人の場合、その日本における登記情報(商業登記簿謄本など)。これは法務局で取得できます 44
        • その他、裁判所のウェブサイトやスマートフォーマットのチェックリストで要求される書類一式 17
      • 申立書の提出: 多くの場合、管轄裁判所に郵送で提出することが可能です 44
    • 主要SNS/プラットフォーム別 発信者情報開示請求(裁判手続き)の窓口と注意点個人で手続きを進める際、特に海外に本社を置く大手プラットフォームの場合、どこを相手方とし、どの裁判所に申し立てるべきか迷うことがあります。以下に主要なプラットフォームに関する情報をまとめますが、最新の情報は必ず各プラットフォームの規約や裁判所のウェブサイトで確認してください。近年、多くの海外企業が日本に登記上の代表者を置くようになり、手続きが以前よりは明確化されています 21。
プラットフォーム裁判手続き上の相手方(日本法人等)主な管轄裁判所(開示命令申立て)関連情報例DIY申立時の注意点
X (旧Twitter)X Corp. (米国法人、日本における登記あり)東京地方裁判所 (民事第9部)9任意開示はほぼ期待できない。裁判手続きが必須。スマートフォーマットの利用を推奨。
Facebook / InstagramMeta Platforms, Inc. (米国法人、日本における登記・代表者あり)東京地方裁判所20Meta社は日本に登記上の拠点があるため 56、送達等が比較的容易になった。任意開示は稀。裁判手続きが必要。
YouTube / GoogleGoogle LLC (米国法人、日本における登記あり)東京地方裁判所33Googleも日本に登記あり 43。任意開示は期待薄。裁判手続きが基本。チャンネルが収益化されている場合、IPアドレス経由以外のルートも検討の余地あり 33
TikTokTikTok Pte. Ltd. (シンガポール法人) / TikTok Japan合同会社東京地方裁判所 (海外法人要素から)3任意開示は稀。裁判手続きが主となる。63は法執行機関向け窓口の情報であり、民事手続きは別途確認が必要。

この「発信者情報開示命令」制度は、個人での申立てを試みる方にとって、手続きの負担を軽減し、迅速な解決の可能性を高めるものです。しかし、依然として法的な理解と正確な書類作成が求められる点に変わりはありません。CPからAPの情報を得て、次にAPに対して申立てを行うという段階的な論理を理解し、各段階で必要な情報を正確に請求することが重要です。

4. ステップ3:費用編 – 自分でやる場合のコストは?

発信者情報開示請求を自分で行う最大の動機の一つは、費用の節約でしょう。弁護士に依頼すると高額になりがちな費用も、自分で行えば実費のみで済む可能性があります。ここでは、具体的な費用項目と、新旧の手続きによる違いを見ていきましょう。

任意開示請求の場合の費用

  • この方法は、基本的に書類作成と郵送にかかる費用のみです。
    • 郵便料金(内容証明郵便など):数千円程度
    • 印刷費など雑費

裁判手続きの場合の費用

裁判手続きを利用する場合、主に以下の費用が発生します。

  • 収入印紙(しゅうにゅういんし): 裁判所に納める申立手数料です。
    • 発信者情報開示命令(新制度)の場合: 1つの申立て(例:CPに対する開示命令、提供命令、消去禁止命令など)につき1,000円です 9。例えば、CPに対して開示命令、提供命令、消去禁止命令をまとめて申し立てる場合、それぞれに1,000円ずつ、合計3,000円程度かかる計算になります(東京地裁FAQ 17)。同様にAPに対しても開示命令と消去禁止命令を申し立てれば、さらに2,000円程度が必要です。
    • 従来の仮処分申立ての場合: 1つの申立てにつき2,000円です 8
    • 従来の訴訟(APに対する契約者情報開示)の場合: 訴額にもよりますが、この種の情報開示訴訟では13,000円程度が目安とされています 40
  • 郵便切手(ゆうびんきって)または予納郵券(よのうゆうけん): 裁判所が当事者に書類を送付するための郵便料金です。
    • 数千円程度(例:3,000円~6,000円)が必要となり、裁判所や事案によって異なります 8
    • 東京地方裁判所の発信者情報開示命令事件では、相手方の数に応じたレターパックライトの予納を求められることがあります 17
  • 担保金(たんぽきん):
    • 主に従来の仮処分申立てで必要でした。1つの仮処分申立てにつき、10万円~30万円程度が一般的です 8。これは、申立てが不当であった場合に相手方が被る損害を担保するためのお金で、正当な申立てであれば後に返還されますが、一時的に大きな金額を用意する必要がありました。
    • 発信者情報開示命令(新制度)では、この担保金は原則として不要です 40。これは、新制度が非訟手続であり、仮処分を利用しないためで、費用面での大きなメリットと言えます。この担保金の不要化は、個人が裁判手続きを利用する際の経済的ハードルを大きく下げるものです。
  • その他の費用:
    • 相手方法人の商業登記簿謄本取得費用:1通数百円~数千円(法務局で取得 44)。
    • 交通費(裁判所に行く場合など)。

DIY費用の比較(概算)

自分で行う場合の費用を、従来の方法と新しい発信者情報開示命令制度で比較してみましょう。

費用項目任意開示請求従来型仮処分+訴訟新たな発信者情報開示命令関連情報例
収入印紙 (CPへの請求)約2,000円 (仮処分)約3,000円 (開示・提供・消去禁止命令各1,000円と仮定)9
収入印紙 (APへの請求)約15,000円 (ログ保全仮処分2,000円+訴訟13,000円)約2,000円 (開示・消去禁止命令各1,000円と仮定)9
郵便切手 (裁判所)約6,000円~12,000円 (2段階分)約3,000円~6,000円 (またはレターパック代)8
担保金 (CP)10万円~30万円 (返還可能性あり)不要8
担保金 (AP)10万円~30万円 (ログ保全、返還可能性あり)不要8
その他 (書類準備・郵送等)約1,000円約5,000円約5,000円
合計 (担保金除く)約1,000円約23,000円~29,000円約13,000円~16,000円
合計 (担保金含む、目安)約1,000円約223,000円~629,000円 (担保金が大きな要素)約13,000円~16,000円

※上記はあくまで目安であり、事案や裁判所によって変動します。

弁護士費用との比較

弁護士に発信者情報開示請求(特定まで)を依頼した場合、総額で30万円~70万円以上かかることが一般的です 8。これと比較すると、自分で行う場合は費用を大幅に抑えられますが、失敗した場合のリスク(特定不能になるなど)も考慮に入れる必要があります 7

収入印紙や郵便切手の金額は比較的小さいものの、これらを正確に準備し、裁判所に提出するまでの手間や時間は、法律専門家でない方にとっては「隠れたコスト」と言えるかもしれません。もし誤りがあれば、裁判所から書類が返送され、貴重な時間が失われることにもなりかねません。

費用の負担を軽減する方法:法テラスの活用

経済的な理由で専門家の利用をためらう場合、「法テラス(日本司法支援センター)」の利用を検討できます。収入や資産が一定基準以下であるなどの条件を満たせば、無料の法律相談を受けられたり、弁護士費用や裁判費用の立替え制度を利用できたりする場合があります 75。立替金は原則として分割で返済することになります。自分での手続きに不安を感じるものの費用面で弁護士依頼を躊躇している方は、一度相談してみる価値があるでしょう。

発信者特定にかかった費用は、後に加害者に対して損害賠償請求を行う際に「調査費用」として請求できる可能性があります 19。ただし、全額が認められるとは限らず、裁判所の判断によります 40。この点も、費用を考える上での一つの要素となりますが、回収できるかどうかは特定後の交渉や訴訟の結果次第です。

5. ステップ4:注意点と対策 – 失敗しないために知っておくべきこと

発信者情報開示請求を自分で行う際には、いくつかの落とし穴があり、これらを避けるための対策が不可欠です。時間との戦いであると同時に、法的な正確性が求められる手続きだからです。

自分で請求する際の一般的な失敗例と回避策 2

  • 証拠の不備・不足(しょうこがとぼしい):11
    • よくある誤り: 権利侵害投稿のURL、投稿日時、内容、投稿者アカウント情報などを網羅したスクリーンショットを確保していない。
    • 対策: ステップ1で解説した証拠保全のガイドラインを徹底する。特にURLは個別投稿のものであること、日時の記録が重要です。証拠によって、誰が被害者で(同定可能性)、どのような権利侵害があったのかを明確に示せるようにします。
  • ログ保存期間の徒過(ろぐほぞんきかんのとが):2
    • よくある誤り: 手続きの開始が遅れたり、書類不備などで時間を浪費し、プロバイダがログを消去してしまう。
    • 対策: 権利侵害を発見したら即座に行動を開始する。3ヶ月~6ヶ月というログ保存期間は絶対です。裁判手続きを利用する場合は、申立てと同時に「消去禁止命令」を求めることが極めて重要です 1。この命令が出れば、審理中にログが消去されるリスクを回避できます。
  • 権利侵害の主張が法的観点から不十分:1
    • よくある誤り: 感情的に被害を訴えるだけで、具体的にどの法律上の権利がどのように侵害されたのかを論理的に説明できていない。例えば、名誉毀損であれば、なぜその投稿が社会的評価を低下させるのか、といった点の説得力ある主張が欠けている。
    • 対策: 請求書や申立書の「侵害された権利」および「権利が明らかに侵害されたとする理由」の項目を、法的な観点から具体的に記述する。名誉毀損、侮辱、プライバシー侵害など、該当する権利侵害の類型を理解し、それに沿った主張を展開します。
  • 請求先プロバイダの誤りや手続き選択の誤り:7
    • よくある誤り: コンテンツプロバイダ(サイト運営者)に契約者情報を請求してしまう(通常保有していない)、アクセスプロバイダ(接続業者)の特定を誤る、など。
    • 対策: CPは投稿時のIPアドレスなどを、APはそのIPアドレスの契約者情報を保有しているという役割分担を理解する。裁判手続きは、原則として新しい「発信者情報開示命令」制度の利用を検討します。
  • 書類の不備・記載漏れ:2
    • よくある誤り: 裁判所に提出する申立書や、プロバイダに送付する請求書の様式が正しくない、必要事項が記載されていない、添付書類が不足している。
    • 対策: 公式な書式(テレサ書式、スマートフォーマットなど)を正確に用いる。特に東京地裁のスマートフォーマットにはチェックリストが付属しているので、提出前に必ず確認します 16。小さなミスが大きな遅延につながるため、細心の注意が必要です。
  • 開示を受けるべき「正当な理由」の欠如:2
    • よくある誤り: 開示請求の目的として、個人的な復讐や単なる好奇心を記載してしまう。
    • 対策: 「損害賠償請求権の行使のため」など、法的に認められる正当な理由を明記します 7
  • 証拠確保前の投稿削除:11
    • よくある誤り: 証拠を保全する前に投稿が削除されてしまう。
    • 対策: 権利侵害投稿を発見したら、他の何よりもまず証拠保全(スクリーンショット撮影など)を最優先で行います。
  • 発信者が契約していない端末(ネットカフェなど)からの投稿:11
    • 限界: この場合、開示請求で特定できるのはネットカフェの契約情報までであり、個人の特定には至りません。
    • 対策: 個人での対応は非常に困難です。ネットカフェの防犯カメラ映像や利用履歴の照会など、さらなる調査が必要となり、これらは弁護士や警察の協力なしには難しい場合が多いです。

これらの失敗パターンは、手続きの遅延や、最悪の場合には発信者特定が不可能になるという結果を招きます。個人で進める場合は、これらの点に最大限の注意を払う必要があります。

プロバイダから発信者(とされる人物)への意見照会について

発信者情報開示請求を行うと、プロバイダは通常、情報開示の対象となる発信者(契約者)に対して「意見照会書」を送付し、情報の開示に同意するかどうか、また開示に反対する場合はその理由などを尋ねます 1

  • 発信者側の対応:
    • 意見照会書を受け取った発信者は、通常2週間以内に回答するよう求められます 27
    • 選択肢としては、開示に同意する、同意しない(理由を付して)、あるいは無視する(推奨されません 78)などがあります。
    • 開示に同意しない場合でも、プロバイダや裁判所が権利侵害が明白であると判断すれば、情報は開示されることがあります 1。2022年の法改正により、プロバイダは不同意の理由も聴取することが義務付けられました 1。この理由は、後の裁判所の判断材料の一つとなり得ます。
    • 正当な理由なく開示を拒否したり、意見照会を無視したりした場合、後に裁判で開示が命じられると、損害賠償請求の際に不利に働く可能性も指摘されています 19
    • もし身に覚えがない場合や、投稿が権利侵害に当たらないと考える場合は、その旨を具体的に回答することが重要です 39

請求者側としては、この意見照会のプロセスがあることを理解し、手続きに一定の時間を要すること、そして発信者の反論があり得ることを念頭に置く必要があります。しかし、発信者の反対が直ちに開示請求の失敗を意味するわけではないことも重要です。

海外法人への請求に関する考慮事項 21

X(旧Twitter)、Meta(Facebook、Instagram)、Google、TikTokといった主要なSNSプラットフォームの多くは海外に本社を置く法人です。

  • かつては、これらの海外法人に対する法的手続きは、国際送達の問題や判決の執行など、多くの困難を伴いました 79
  • しかし近年では、これらの企業の多くが日本国内に登記上の拠点や代表者を設けるようになり、また、東京地方裁判所がこれらの海外法人に対する発信者情報開示請求の管轄を有することが一般的になったため、手続きは以前に比べて進めやすくなっています 21
  • 特に東京地方裁判所民事第9部が提供する「スマートフォーマット」は、これらの海外大手プラットフォームを相手取る場合の申立てに非常に役立ちます。
  • ただし、日本国内に明確な窓口がなく、確立された手続きルートが存在しない小規模な海外事業者などの場合は、個人での対応は依然として極めて困難であり、専門家の助けが不可欠となるでしょう。

DIYが困難になった場合の弁護士への相談タイミング

発信者情報開示請求は、自分で行うと決めた後でも、途中で困難に直面することがあります。その際は、無理をせずに弁護士に相談することを検討しましょう。

  • 法的な要件の理解や権利侵害の主張の仕方が分からない。
  • 書類作成や証拠収集に手間取り、ログ保存期間の期限が迫っている。
  • プロバイダが協力的でなく、複雑な法的反論をしてきた。
  • 海外法人が相手で、手続きが想定以上に複雑である。
  • 精神的な負担が大きく、手続きを進めるのが辛い。

このような場合は、早期に弁護士に相談することで、状況を打開できる可能性があります。手続きの途中からでも依頼を引き受けてくれる弁護士もいます 9。初めから全てを自分で行うことに固執せず、状況に応じて専門家の助けを借りるという柔軟な姿勢も大切です。多くの法律事務所では初回相談を無料としている場合もあるため、まずは現状を相談してみることから始めるのも一つの方法です。

6. ステップ5:発信者特定後 – 次に何をすべきか

発信者情報開示請求が成功し、加害者の氏名や住所が判明したら、それで終わりではありません。むしろ、ここからが本格的な権利回復のための行動の始まりです。特定された情報をもとに、以下のような対応を検討することができます。

損害賠償請求(そんがいばいしょうせいきゅう) 2

  • 根拠: 権利侵害行為は「不法行為(ふほうこうい)」にあたるとして、民法に基づき損害賠償を請求できます 21
  • 権利侵害の種類と慰謝料相場(いしゃりょうそうば):
    • 名誉毀損:
      • 個人の場合:10万円~50万円程度 8
      • 法人の場合:50万円~100万円程度 8
      • 悪質なケースではこれ以上の金額が認められることもあります(例:35では100万円~264万円の事例も)。
    • 侮辱:
      • 1万円~10万円程度 8。名誉毀損より低い傾向にあります。
    • プライバシー権侵害:
      • 10万円~50万円程度 70。個人のセンシティブな情報(ヌード写真、病歴など)の暴露の場合は100万円を超えることもあります 70
    • 著作権侵害: 逸失利益やライセンス料相当額に加え、慰謝料が認められる場合があります 35
    • 業務妨害: 100万円~200万円程度と比較的高額になることもあります 8
  • 慰謝料の増減要因:35
    • 権利侵害の態様や悪質性、継続性。
    • 情報の拡散の程度や範囲。
    • 加害者の意図や動機(悪意の有無)。
    • 被害者が受けた精神的苦痛の程度、社会的・職業的影響。
    • 名誉毀損の場合、摘示された事実が真実であったか(公共の利害に関わる場合は真実であれば免責されることも 24)。
    • 加害者の対応(謝罪の有無、反省の態度など)。
  • 発信者情報開示にかかった費用の請求(調査費用): 発信者の特定に要した費用(裁判費用、一部弁護士費用など)も、損害の一部として加害者に請求できる可能性があります 19。ただし、全額が認められるとは限りません 40。そのため、DIYでかかった費用(収入印紙代、郵便切手代、交通費など)の記録をしっかり残しておくことが重要です。
  • 損害賠償請求の手順:
    1. 請求書(通知書)の送付: まずは加害者に対し、損害賠償を請求する旨の通知書を送付します。内容証明郵便で送付すると、送付した事実と内容を証明できるため有効です 2
    2. 示談交渉(じだんこうしょう): 通知書に基づき、加害者との間で話し合いによる解決(示談)を目指します 2
    3. 民事訴訟の提起: 示談が成立しない場合は、加害者の住所地を管轄する裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します 2。これは発信者情報開示請求とは別の新たな訴訟手続きです。訴状の作成が必要となり、裁判所のウェブサイトで一般的なひな形が提供されていることもあります 47。損害賠償請求訴訟の申立手数料(収入印紙代)は、請求する金額によって変動します 67
  • 時効(じこう): 損害賠償請求権は、損害および加害者を知った時から3年で時効により消滅するのが原則です 84

刑事告訴(けいじこくそ) 2

  • 名誉毀損罪、侮辱罪、業務妨害罪、脅迫罪など、権利侵害が悪質な犯罪に該当する場合は、警察に刑事告訴を行うことができます 3
  • 告訴が受理されれば、警察が捜査を行い、検察が起訴すれば刑事裁判となります。有罪判決となれば、加害者は罰金や懲役といった刑罰を受ける可能性があります 21
  • ただし、警察は特にネット上のトラブルの場合、被害者自身がまず加害者を特定することを求める傾向があります 129
  • 告訴期間(こくそきかん): 侮辱罪など一部の犯罪(親告罪)では、犯人を知った日から6ヶ月以内に告訴する必要があります 84

投稿削除要求(とうこうさくじょようきゅう) 2

  • 権利侵害投稿がまだ残っている場合は、特定した加害者に対して直接削除を要求することができます。

示談交渉(じだんこうしょう) 2

  • 多くの場合、裁判外での話し合いによる解決(示談)が試みられます。
  • 示談では、謝罪、慰謝料の支払い、再発防止の約束などが合意内容となることが一般的です。

発信者を特定できたとしても、その後の損害賠償請求や刑事告訴は、また別の法的手続きとなります。特に損害賠償請求訴訟を自分で行う場合は、訴状の作成、証拠の提出、期日への出廷など、さらなる時間と労力が必要となります。慰謝料の額も、特に侮辱罪や軽微な名誉毀損・プライバシー侵害の場合、必ずしも高額になるとは限らず、場合によっては特定にかかった費用や労力に見合わない「費用倒れ」のリスクも考慮する必要があります 40

しかし、金銭的な回収だけでなく、加害者に責任を認めさせること、謝罪を得ること、そして何よりも権利侵害行為を止めさせ、再発を防ぐという意味で、これらの手続きは被害者にとって重要な意味を持ちます。どの手段を選択するかは、被害の状況やご自身の目的をよく考えた上で判断することが大切です。

7. まとめ:自分で発信者情報開示請求を行うということ

弁護士に依頼せず、ご自身の手で発信者情報開示請求を行うという道のりは、決して平坦ではありません。法的な知識、細部への注意力、そして何よりも時間と根気が必要とされます。

挑戦とコミットメントの再確認

  • この手続きは法的に複雑であり、正確な理解と緻密な準備が求められます。
  • ログの保存期間という厳しい時間制限の中で、迅速かつ正確に行動しなければなりません。
  • 権利が侵害されたことの証明責任は、全面的に請求者自身にあります。

得られる可能性のあるもの

  • 最大のメリットは、弁護士費用を大幅に節約できる可能性です。
  • また、自ら行動することで、問題解決に向けた主体的な関与と達成感を得られるかもしれません。

最後に:励ましと注意喚起

2022年のプロバイダ責任制限法改正、特に「発信者情報開示命令」制度の導入や、東京地方裁判所による「スマートフォーマット」のようなツールの提供は、個人がこの手続きに挑戦する上でのハードルを以前よりは下げたと言えるでしょう 1。これらの制度変更は、被害者救済をより迅速かつ実効的にするための社会的な要請の表れでもあります。

徹底した準備と慎重な実行をもって臨めば、ご自身で発信者を特定し、次の法的ステップへ進むことは不可能ではありません。

専門家の助けを借りるべき時

しかし、もし手続きのいずれかの段階で確信が持てなくなったり、予期せぬ困難に直面したり、あるいは時間的・精神的な負担が過大になったりした場合は、決して無理をせず、速やかに法律の専門家である弁護士に相談することを強くお勧めします 2。手続きの途中からでも対応してくれる弁護士はいますし、初回相談を無料で行っている事務所も少なくありません。

また、経済的な理由で弁護士への依頼をためらわれる場合は、法テラス(日本司法支援センター)の利用も検討してみてください 75

発信者情報開示請求は、権利侵害の被害回復に向けた重要な第一歩です。このガイドが、その一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。最終的な目的は、単に相手を特定することではなく、受けた被害を回復し、平穏な生活を取り戻すことにあるということを忘れないでください。

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