序章:怒りの沸点 – 公金が私的に浪費されていると感じる時
八潮市民の皆さん、市の「家庭用防犯カメラ設置推進事業補助金」というのをご存知ですか?市民の税金が、個人の住宅に設置される防犯カメラの購入費用に充てられているのです。しかも、そのカメラは公道を映さず、個人の敷地内のみを監視するという、極めて限定的な条件付きで。1
市は「市民の防犯意識の向上と犯罪抑止」を掲げていますが 3、その実態は、公共の利益にほとんど貢献しない個人的な利益への補助に他なりません。この政策は、市民の信頼を裏切り、税金の公平な使用という原則を踏みにじるものです。
八潮市の「気前の良さ」を解読する:一体何が、どんな条件で補助されているのか?
まず、八潮市の「家庭用防犯カメラ設置推進事業補助金」の概要を正確に見ていきましょう。2
- 目的:「市民の防犯意識の向上と犯罪抑止」3
- 対象者:市内に戸建て住宅を所有し居住する方で、令和7年6月1日以降に新品の家庭用防犯カメラを購入した方。申請は1世帯につき1回限りです。2
- 補助金額:カメラ本体の購入費、設置工事費、「防犯カメラ録画中」などの表示板設置費を含む合計額の2分の1で、上限は2万円。予算枠は先着200件です。2
- 申請方法:申請書、本人確認書類、振込先確認書類、設置写真、機器の仕様がわかる資料など複数の書類を揃え、交通防犯課窓口に直接提出する必要があります。郵送申請は不可です。1
そして、最も問題視すべき条件が、「私有地のみ撮影」という義務です。
「自宅の敷地内を撮影するために設置した防犯カメラであること」1 と明記され、さらに「撮影をした際に、自宅の敷地以外が映らないように画角を調整してください」2 と念を押しています。敷地外が映り込む場合は所有者の許可を得るよう求められていますが 1、これはあくまで隣接する私有地への偶発的な映り込みを想定したものであり、積極的に公道を撮影して地域の安全に貢献することを促すものではありません。この「許可」条項は、公共の利益という観点からは、ほとんど意味をなさないと言えるでしょう。公道や公共空間の撮影を奨励したり、そのための手続きを円滑化したりするものではなく、あくまで私有地間の問題解決を促すものに過ぎません。
その他の条件として、屋外用であること、24時間常時撮影・録画可能であること、カメラとモニター・記録媒体が分離していること、追跡・追尾機能がないこと、「防犯カメラ作動中」等の表示板を設置することなどが挙げられています。1
この制度は、先着200件という限定的な枠 3、そして窓口での直接申請と多数の必要書類 1 という手間を考えると、決して全ての市民に開かれた制度とは言えません。公金を用いる以上、その恩恵は広く公平に行き渡るべきですが、この制度は、情報感度が高く、迅速に行動できる一部の市民に偏って利用される可能性があります。特に、撮影範囲が私有地に限定され、公共への直接的な利益が乏しいことを考慮すると、このような限定的な対象者への補助は、税の公平性という観点からも疑問が残ります。
根本的な欠陥:なぜ私の税金が、あなたの私的監視に使われなければならないのか?
住民税は、地域社会全体の利益となる公共の財貨やサービスを提供するために徴収されるものです。道路の整備、学校教育、そして警察活動や公道を監視する防犯カメラの設置といった地域全体の安全確保などがその典型です。
しかし、八潮市のこの補助金制度は、公道を撮影することを明確に禁じている防犯カメラに税金を投入しています。1 カメラが道路を見ることができなければ、路上での犯罪をどうやって抑止し、また発生した犯罪の解決にどう貢献するというのでしょうか?この問いに、市は明確に答えることができないはずです。
補助金交付の原則として、「公正かつ効率的に使用することにより、市民の福祉に寄与し、市行政に貢献するよう努めなければならない」とされています。4 八潮市の補助金が、撮影範囲を極端に限定することで、果たして「効率的に」市民全体の福祉に寄与していると言えるでしょうか。地方自治体が「公益性」をあまりに広範に解釈し、税負担の公平性を損なうことへの警鐘もあります。5 まさにこの補助金は、一部の個人の私的利益のために、その他多くの市民の税金が使われている典型例と言えるでしょう。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」で描かれるように、もし誰もが自己の利益のみを追求すれば、社会全体の基盤が崩壊してしまいます。6 この政策は、まさに公金を使って個人の私的防衛を奨励し、地域全体の安全という共同体的な視点を欠いているように見えます。
このような政策は、行政への信頼を著しく損なうものです。市民は、自分たちが納めた税金が、一部の個人の資産保護のためだけに使われ、地域全体の安全向上という明確で広範な公共の利益に結びついていないと感じれば、地方自治体の財政運営に対する不信感を抱くのは当然です。
さらに、この補助金に充てられる予算(200件 x 上限2万円 = 最大400万円)3 は、他のより広範な公共の安全に資する施策に使うこともできたはずです。例えば、犯罪が多発する可能性のある場所に公設の防犯カメラを設置する、街灯を増やして夜間の視認性を高める 7、あるいは地域住民による防犯パトロール活動を支援する 9 といった選択肢です。限られた財源の中で、このような私的利益への補助は、機会費用という観点からも問題が大きいと言わざるを得ません。11
プライバシー保護:真の懸念か、それとも都合の良い隠れ蓑か?
八潮市は、この「私有地のみ撮影」という制限の理由を「プライバシー保護の観点から」と説明しています。2 プライバシーが重要な権利であることは論を俟ちません。12 しかし、この市の説明は、あまりにも短絡的であり、問題の本質から目を逸らさせるための「隠れ蓑」ではないかと疑わざるを得ません。
多くの自治体や専門機関は、プライバシー保護と公共空間の監視の必要性を両立させるための具体的なガイドラインを提示しています。例えば、防犯カメラの設置を明示する看板の設置(これは八潮市も義務付けています 1)、撮影範囲の適切な設定、録画データの厳格な管理とアクセス制限などです。14 これらの指針は、公共の安全のためにカメラを運用しつつ、個人のプライバシー侵害をいかに防ぐかという、より建設的な議論に基づいています。
八潮市の政策は、あたかも公道を少しでも撮影することが即プライバシー侵害であるかのような印象を与えますが、これは極端な解釈です。プライバシー侵害が問題となるのは、撮影範囲が不適切であったり、データ管理が杜撰であったりする場合であり、公道を撮影すること自体が絶対悪なのではありません。14
さらに不可解なのは、市が「事件発生の際には、警察の捜査に協力し、映像データを提供するようお願いすることがあります」3 としている点です。カメラが厳格に私有地のみを向いているのであれば、公道で発生したひき逃げ事件や路上での暴行事件などに対して、その映像が役立つ可能性は著しく低いでしょう。これは、警察への協力を期待しつつも、その協力に必要な視野をカメラから奪うという、自己矛盾に陥っています。
結局のところ、「プライバシー保護」という理由は、公共の利益に資するカメラの運用という複雑な課題から逃避し、公金を私的利益に流用しているという批判をかわすための、都合の良い口実として使われているのではないでしょうか。
他の都市はどうしている? 八潮市のアプローチとの比較
八潮市のこの特異な政策は、他の自治体の取り組みと比較することで、その問題点がより一層明確になります。
特徴 | 八潮市 | 北九州市(地域団体・事業者) | 輪之内町(地域団体) | 船橋市(地域団体) | 小牧市(個人・事業者) | 小牧市(地域団体) | 荒川区(個人) | 桐生市(個人) | 知多市(個人 – ) |
主な焦点 | 個人宅 | 公共空間 | 公共空間 | 公共空間 | 個人宅・事業所 | 公共空間 | 個人宅・集合住宅 | 個人宅 | 個人宅 |
撮影条件 | 私有地のみ 1 | 公共空間を撮影 15 | 公共空間を撮影 15 | 撮影区域の1/2以上が公道 16 | 「一部でも屋外を撮影」17、他人の住居撮影時は同意要 | 公共空間を撮影 18 | 原則私有地・共用部 20、敷地外撮影は最小限に 21 | 住宅敷地内のみ 16 | 「必要最小限の範囲(原則、敷地内)」23 |
撮影条件の根拠 | プライバシー保護 2 | 公共の犯罪抑止(15より示唆) | 公共の犯罪抑止(15より示唆) | 公共の犯罪抑止(16より示唆) | 明確な記載なし、プライバシーは同意により担保 | 公共の犯罪抑止(18より示唆) | 近隣住民のプライバシー配慮 21 | 敷地内の犯罪予防 22 | プライバシー(23 県ガイドライン遵守より示唆) |
補助上限額 | 2万円 3 | 1台30万円(団体)、13万円(事業者)15 | 10万円 15 | 20万円 16 | 1万円 17 | 20万円 18 または34万円 19 | 2万円~15万円 21 | 1万円 22 | 3万円 23 |
この表から明らかなように、多くの自治体は、防犯カメラ補助金を地域全体の安全向上に結びつけています。北九州市や輪之内町、船橋市では、明確に「公共空間を撮影する」カメラを補助対象としています。15 これは、税金を使う以上、その恩恵が広く市民に及ぶべきであるという当然の考え方に基づいています。
小牧市のように、個人向けと地域団体向けで制度を分け、個人向けには少額の補助を出しつつも「一部でも屋外を撮影すること」を条件とし 17、地域団体向けには公共空間の撮影を目的とした手厚い補助を行う 18 という、よりきめ細やかな対応をしている例も見られます。これは、多様なニーズに応えつつ、公金の使途の正当性を担保しようとする姿勢の表れと言えるでしょう。
一方で、荒川区や桐生市のように、個人宅向けの補助金で撮影範囲を敷地内に限定している例もありますが 16、荒川区では「近隣住民のプライバシーに配慮し、撮影範囲が必要最小限となるよう」という一般的な注意喚起に留めているのに対し 21、八潮市の「公道を映してはならない」という厳格な規定は、プライバシー保護を理由とした公共への貢献の放棄とさえ言えます。知多市も「原則、敷地内」としつつも「公道等から容易に見える位置」という表現があり 23、八潮市ほど絶対的な排除ではありません。
これらの比較から、八潮市の政策がいかに公共の利益という視点を欠き、硬直的であるかが浮き彫りになります。
「間接的効果」という神話:内向きカメラへの公費投入
市は、たとえ私有地しか映さないカメラであっても、「防犯意識の向上」や「犯罪抑止」に繋がるという「間接的な効果」を期待しているのかもしれません。3 確かに、カメラが設置されている家は狙われにくくなるかもしれませんし 28、万が一その家で事件が起きれば、証拠映像が警察の捜査に役立つ可能性はあります。3
しかし、これは極めて限定的な効果です。公道を監視しないカメラの存在が、その家の前の通りや近隣の住宅に対する犯罪抑止力を持つとは考えにくいでしょう。また、公道で発生した事件の証拠を、偶然にも私有地向きのカメラが捉えるというのも、あまりに楽観的な期待です。そもそも、この補助金制度は公道を撮影することを禁じているのですから、そのような「偶然」は期待すべくもありません。
最も重要なのは、これらの間接的で限定的な効果が、一般市民の税金を投入するに値するほどの「公共の利益」と言えるのか、という点です。個人の資産防衛に資する効果は否定しませんが、それはあくまで私的利益の範疇です。公金を投入するのであれば、より直接的で広範な公共の安全への貢献が求められるべきです。八潮市の政策は、この「公共の利益」という観点からの検証が著しく不足しています。
誤った政策:八潮市は抜本的な見直しを迫られている
八潮市の現行の防犯カメラ補助金制度は、非効率的で不公平、そして正当性に乏しい税金の無駄遣いであると言わざるを得ません。少数の個人の私的利益を優先し、市民全体の広範な安全向上という視点が欠落しています。「プライバシー保護」という主張も、公共空間の監視からカメラを遠ざけるための説得力のない言い訳に過ぎません。
この補助金に充てられる予算は、より直接的で広範な公共の安全に資する施策に振り向けるべきです。例えば、
- 町内会や自治会などが、公道や公園、その他の危険箇所を監視するために設置する防犯カメラへの補助(北九州市 15、輪之内町 15、船橋市 16、小牧市の地域団体向け制度 18 などを参考に)。
- 街灯の増設やLED化など、夜間の視認性を高め、犯罪を抑止する効果が実証されているインフラ整備。7
- 地域住民による防犯パトロール活動への支援強化。9
- もし個人向け補助金を継続するのであれば、適切なプライバシーガイドラインを設けた上で、公道に面した部分の撮影を許可、あるいは奨励する形に改めるべきです。
豊島区の監査報告では、補助金制度について、その効果検証や継続の判断、委託契約など他の実施方法との比較考量が求められています。32 八潮市も、この補助金制度の有効性を真摯に検証し、他の自治体のより優れた事例に学ぶべきです。現状の政策は、まるで他の効果的な選択肢を検討することなく、安易な結論に飛びついたかのような印象さえ受けます。この政策は、限られた財源を公正かつ効率的に使用し、市民全体の福祉に貢献するという地方自治体の責務 4 を果たしているとは到底言えません。
結論:私たちの税金、私たちの安全 – 八潮市よ、変革を求めよ!
繰り返しになりますが、八潮市の家庭用防犯カメラ設置推進事業補助金は、以下のような深刻な問題を抱えています。
- 市民の税金が、極めて私的な利益のために使われている。
- 「公道撮影禁止」という条件により、地域全体の安全への貢献が著しく阻害されている。
- 「プライバシー保護」という理由は、説得力に欠け、問題の本質を覆い隠している。
- 他の多くの自治体は、より公共の利益に資する形で補助金制度を運用している。
これは単なる抽象的な政策論争ではありません。私たち自身の税金がどのように使われ、私たち自身の地域社会の安全が本当に優先されているのか、という切実な問題です。
八潮市当局に対し、以下の行動を強く求めます。
- 現行の「家庭用防犯カメラ設置推進事業補助金」を直ちに見直し、一時停止すること。
- 市民の税金をいかにして地域全体の安全向上に最も効果的に活用できるかについて、真摯な市民対話を行うこと。
- 補助金制度を、真に公共の利益に合致する形に抜本的に改革するか、あるいは廃止して、より効果的な公共安全対策に予算を振り向けること。
八潮市民の皆さん。この問題について思うところがあれば、ぜひコメントをください。
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