「日本語を話せば身に危険」― それでも「友好国」と言えますか?中国の渡航危険情報レベルを引き上げるべき

I. はじめに:海外における日本人の憂慮すべき現実 ― 我々の言葉が負債となる時

自国語である日本語を話すという単純な行為が、不快な視線だけでなく、あからさまな敵意や暴力さえ招きかねない国を想像してみてください。これは一部の海外在留日本人にとって仮定のシナリオではなく、新たに出現しつつある深刻な懸念材料です。

この問題は、個人の安全という核心的な感情に触れるだけでなく、国家のアイデンティティ、個人の安全、そして外交関係の交差点にも関わっています。日本語を話すことがリスクとなるならば、それは個々の旅行者だけでなく、日本の文化外交や国際的イメージにも影響を及ぼします。

II. 証拠:邦人を標的とした憂慮すべき事件のパターン

最近の中国における出来事は、日本人であること自体が危険因子となり得ることを示唆する、憂慮すべき状況を描き出しています。

重慶事件:言語と危険の直接的関連性

2025年5月下旬、中国西部・重慶市で、配車アプリを利用した日本人が運転手とトラブルになり、暴力を振るわれ軽傷を負う事件が発生しました 1。この日本人は配車アプリで呼んだ車に乗ろうとしたところ、運転手から乗車を拒否され、暴行を受けたと報じられています 3

最も憂慮すべきは、この事件を受けて在中国日本国重慶総領事館が発出した安全情報です。同総領事館は、在留邦人に対し、配車アプリやタクシー利用時には「運転手との議論を避け、日本語や大声での会話を避ける」よう注意喚起しました 3。これは一般的な犯罪への注意ではなく、日本語の使用と潜在的な危険性を関連付ける具体的な助言です。これは、我々自身の総領事館が、日本語を話すことが敵意の引き金になり得ると暗に認めていることに他なりません。この事実は、日本政府の地方レベルの機関が、言語に特化した脅威を認識し警告していることを示しており、外務省本省もその広範な勧告においてこの種の特定リスクを反映すべきであるという議論に大きな重みを与えます。

頻発する暴力事件

  • 深圳の悲劇(2024年9月): 中国広東省深圳市で、日本人学校に通う10歳の男子児童が中国人男性に刃物で刺されて死亡しました 5。報道によれば、背景には反日感情や偽情報があり、一部のオンラインの言説では日本人学校を根拠なく「スパイ養成機関」と決めつけるものもあったとされています 6。これは無差別な暴力行為ではなく、計画的で憎悪に動機づけられた犯罪の可能性を指し示しています。
  • 蘇州での襲撃事件(2024年): さらに、2024年6月には江蘇省蘇州市の日本人学校スクールバス停留所で、邦人母子が男に切りつけられ、仲裁に入った中国人女性1名が死亡する事件が発生しました 5。同年4月には、同市内の飲食店前の路上で邦人男性が刃物を持った男に襲われ負傷しています 5
  • ALPS処理水放出に関連する状況: 外務省自身も、ALPS処理水の海洋放出に関連した嫌がらせや抗議行動の可能性について注意喚起を発出しています 8。全ての事件がこれに直接関連付けられるわけではありませんが、反日感情がより煽られやすい雰囲気に寄与している可能性があります 6

これらの事件は、単なる日和見的な犯罪ではなく、反日感情に動機づけられた可能性を示唆しています。特に子供や学校関連の場所が標的とされている事実は、これが一般的な街頭犯罪を超えた、アイデンティティに基づく脅威であることを示唆しており、そのような脅威は一般的な犯罪に対する勧告とは異なるレベルの警告と準備を必要とします。

表1:中国における邦人へのリスクを浮き彫りにする最近の事件

日付(概算)場所事件概要日本語話者/邦人への示唆典拠資料
2025年5月重慶配車アプリ利用の邦人がタクシー運転手から暴行を受け負傷。総領事館は日本語での大声の会話を避けるよう助言。31
2024年9月深圳日本人学校の児童(10歳)が刺殺される。標的型攻撃。反日ヘイト/偽情報が背景として報道。65
2024年6月蘇州日本人学校バス停で邦人母子が襲撃され、仲裁の中国人女性死亡。標的型攻撃。5
2024年4月蘇州路上で邦人男性が襲撃され負傷。標的型攻撃。5

III. 外務省の現在の渡航情報:現場の現実と公式認識のギャップは?

外務省の渡航情報システム概要

外務省は、海外の国・地域における危険の度合いを4つのレベルで示しています。レベル1「十分注意してください」、レベル2「不要不急の渡航は止めてください」、レベル3「渡航は止めてください(渡航中止勧告)」、レベル4「退避してください」です 9。これらのレベルは、日本国民が特定の地域への渡航に伴うリスクについて明確な指針を得られるよう設計されています。

現在の中国に対する渡航情報

現在、中国の大部分に対して、外務省は広範な高レベルの渡航情報を発出していません。新疆ウイグル自治区やチベット自治区のような特定の地域は、過去の騒乱や不測の事態が発生する可能性があるとして「レベル1:十分注意してください」とされています 8

外務省は、特定の事案に対して「スポット情報」や「安全情報」を発出しており、例えば2025年5月の重慶での邦人負傷事案に関する在重慶日本国総領事館からの注意喚起 8 や、凶悪犯罪に対する一般的な注意喚起 8 がこれにあたります。

表2:外務省 渡航危険情報レベルとその意味

レベル日本語名称英語訳 (参考)主要な意味典拠資料
レベル1十分注意してください。Exercise sufficient caution.危険を避けるため特別な注意が必要。10
レベル2不要不急の渡航は止めてください。Defer non-essential travel.不要不急の渡航は中止。渡航する場合は特別な注意と十分な安全対策が必要。9
レベル3渡航は止めてください。(渡航中止勧告)Defer all travel. (Travel Advisory)目的を問わず渡航を中止。場合により退避準備を促すことも。9
レベル4退避してください。Evacuate.現地から退避。9

決定的な問い

上記の事件、特に重慶での日本語使用に関する警告を考慮すると、日本人であること自体が危険因子となっているように見える地域に対して、一般的な「レベル1」や「スポット情報」への依存は十分なのでしょうか。これは、脅威の特定の性質を正確に伝えていると言えるのでしょうか。スポット情報(重慶の件など 8)は有用ですが、広範囲に及ぶ可能性のある、アイデンティティに関連した継続的な脅威を十分に捉えきれていない可能性があります。一般的な危険情報レベル(レベル2など)の引き上げは、より強い警告を発し、より広範な懸念を示すことになります。

外務省の危険情報発出基準には、「日本人の『生命・身体』に対する脅威」がある程度継続的に発生している場合、という点が挙げられています 12。後述するように、反日的な事件のパターン、特に言語使用に関連するものは、これらの基準を満たしていると論じられます。

IV. 危険度引き上げの論拠:「十分注意」ではもはや不十分な時

外務省自身の危険情報発出の目安

外務省自身の指針によれば、「危険情報」は、その国・地域ごとの治安情勢を総合的に判断した上で発出され、日本人の「生命・身体」に対する脅威を一つの重要なポイントとしており、中・長期的な観点から発出されます 12。すなわち、ある国・地域において、日本人の「生命・身体」に危害を及ぼす事案が現実に存在し、それがある程度継続的に発生している場合、または、治安等の悪化により、日本人の安全にとり何らかの悪影響が及ぶ可能性がある場合には、その国・地域に対し「危険情報」を発出し、渡航・滞在者に注意を呼びかけることとしています 12。また、この情報は、必ずしも安全対策の専門家ではない「一般的な日本人の個人渡航者」を対象とすることを想定して構成されています 12

点と点を結ぶ ― なぜ現在のレベルでは不十分なのか

2024年から2025年にかけて発生した邦人に対する一連の暴力事件(死亡事件や子供への襲撃を含む)1 は、明らかに「生命・身体への脅威」に該当します。これらの事件が重慶、深圳、蘇州といった異なる都市で繰り返し発生していることは、孤立した事案ではなく、「ある程度継続的に発生している」問題、あるいは少なくとも定期的に再燃する問題であることを示唆しています。

決定的に重要なのは、在重慶総領事館が日本語の使用を避けるよう助言したことです 4。これは、日本人のアイデンティティに直接結びついた特定の脆弱性を示しています。これは、一般的な「レベル1:十分注意してください」(特定の地域を除き、中国全般には明示的なレベル設定なし 8)では、「一般的な日本人の個人渡航者」12 に対して、この微妙な脅威を十分に伝えられない可能性があります。2024年から2025年にかけての複数の深刻な事件は、外務省自身の危険情報発出基準 12 を満たしているように見え、影響を受ける地域に対しては単なるレベル1やスポット情報以上の対応が求められる状況です。

「レベル2:不要不急の渡航は止めてください」の閾値

レベル2の渡航情報は、「その国・地域への不要不急の渡航は止めてください。渡航する場合には特別な注意を払うとともに、十分な安全対策をとってください」と呼びかけるものです 10。自国語を話すという単純な行為が暴行を引き起こしうるのであれば、これは「不要不急の渡航」を再考すべき、あるいは少なくともより高度な公式の警告をもって臨むべき閾値を超えているのではないでしょうか。

外務省の基本的な責務

外務省は、日本国及び日本国民の利益の増進を図り、海外における邦人の生命及び身体の保護を含む任務を負っています 13。この責務を果たすためには、直面するリスクの真の性質を反映した、正確で、時宜にかない、適切に段階付けられた警告を提供する必要があります。外務省の渡航情報が、特にアイデンティティに特化した脅威といった現地の現実に対応していないと認識されれば、国民の安全を保護する機関としての信頼が損なわれる可能性があります。

V. 「リスク」の再定義:一般犯罪からアイデンティティに基づく脅威へ

アイデンティティに関連する危険の特異性

一般犯罪は世界の多くの地域でリスクとなります。旅行者はしばしば、夜間に特定の地域を避ける、スリに注意するなど、一般的な安全対策について助言を受けます(1516の一般的な助言と同様)。

しかし、リスクが国籍や話す言語に関連する場合、その性質は根本的に異なります。これは、間違った時間に間違った場所にいたということではなく、そのアイデンティティが標的にされる場所で、自分自身であることが問題となるのです。

重慶総領事館の警告が持つ画期的な意味

在重慶総領事館からの、大声で日本語を話すことを避けるようにとの助言 4 は、この種のアイデンティティに基づくリスクの明白な指標です。これは、加害者が特に日本語に反応している可能性を示唆しています。これは一般的な外国人嫌悪を超え、聞こえる言語的手がかりによって引き起こされ得る、特定の反日的な敵意を指し示しています。

一般的な安全対策(例えば、状況認識や危険な行動・場所の回避 15)は、リスクが不変の特性(国籍)や基本的な行為(自国語を話すこと)に関連している場合、不十分です。日本語を話さないようにという助言 4 は、安全のために自己のアイデンティティの中核部分を抑制せよという指示であり、これは一般的な犯罪リスクよりも深い心理的負担と脆弱性の感覚を生み出します。外務省の渡航情報は、この質的に異なるリスクを認識すべきです。

現在の渡航情報は、この特異性に対応しているか?

「レベル1:十分注意してください」は、一般的なリスクには適切かもしれません。しかし、リスクが「日本語を話すと攻撃されるかもしれない」というものである場合、それはより的を絞った、より深刻な警告を必要とします。現在のシステムが、一般的な周囲のリスクと、標的とされたアイデンティティに基づく脅威とを十分に区別しているかどうか、再評価が必要です。

「友好国」という概念への挑戦

日本語を話すことが危険な国は「友好国」ではありえない、という当初の感情は、感情的なものではありますが、正当な点を突いています。外交上の「友好」というレッテルは、国民の安全に対する合理的な期待に結びつかなければなりません。その期待が、個人の国民的アイデンティティのために裏切られるならば、そのレッテルは空虚に感じられます。

さらに、日本語を話すことが公然の危険として認識されるようになれば、そのような国への日本人の渡航、留学、就労に萎縮効果をもたらし、皮肉にもそれが最も必要とされるかもしれない時期に、草の根レベルの文化交流や相互理解を妨げる可能性があります。

VI. 結論:積極的な保護、正直な評価、そして真の友好のために

議論の要約

中国における邦人に対する最近の暴力事件の証拠、そして我々自身の在重慶総領事館からの日本語使用の危険性に関する前例のない警告は、憂慮すべき状況を描き出しています。これらは孤立した出来事ではなく、現在の外務省の渡航情報が十分に反映していない可能性のある、特定のアイデンティティに関連したリスクの指標です。

外務省への行動喚起

外務省に対し、以下の措置を講じるよう強く求めます。

  1. このような事件が発生している地域における邦人の安全状況について、特にアイデンティティに基づく脅威を考慮した、透明性のある検証を実施すること。
  2. 日本語を話すことや日本人であることが明白に個人の安全へのリスクを増大させる地域については、外務省自身の基準 12 に沿って、渡航情報レベルを引き上げること(例:レベル2「不要不急の渡航は止めてください」へ)。
  3. 一般的な注意喚起を超えて、これらのアイデンティティに関連した脅威の性質を具体的に示す、明確な警告を提供すること

外務省には、アイデンティティに基づく脅威に関して、さらなる悲劇が発生する前により高いレベルの渡航情報を発出するのではなく、リスク評価と警告において積極的な姿勢が求められます。これは、より強力な予防的ガイダンスを通じて潜在的な危害を予測し軽減することにより、邦人保護という外務省の責務 13 とも合致するものです。

日本国民へのメッセージ

より強固な公式の対応を待つ間、反日感情が報告されている地域へ渡航または滞在するすべての日本国民は、最大限の注意を払い、総領事館の警告を通じて情報を入手し、言語に関連するものを含む潜在的なリスクを鋭敏に認識することが不可欠です。

「友好」の再考

真の国際的友好は、相互の尊重と安全の上に築かれます。ある国の国民が、他国で自らのアイデンティティを表現することに安全を感じられない場合、それはその友好の基盤を揺るがします。これらの安全上の懸念に正面から取り組むことは非友好的な行為ではなく、外交関係が一般の人々の地上の現実と一致することを確実にするための必要なステップです。

最後に

海外における日本人の生命と幸福を守ることは最優先事項です。我が国政府の渡航情報は、いかに外交的に不都合であっても、すべてのリスクを正直かつ勇敢に反映したものでなければなりません。外務省の渡航情報は、国民に情報を提供するだけでなく、日本の国民の安全に関する懸念について相手国政府にシグナルを送る役割も果たします。適切に警告しないことは、状況の深刻さを軽視していると誤解される可能性があります。

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