サマリー
- 研究は、日本での電子カルテの標準化と共有が遅れていることを示唆しています。
- 地域連携も進んでいないようで、特に情報共有の接続率が低いことが問題です。
- 国際比較では、米国と比べて日本の導入率や接続性が遅れているようです。
背景と現状
日本では、電子カルテ(EMR)の導入が進んでいますが、標準化や地域間のデータ共有が十分に進んでいないようです。2021年の調査では、病院の73.3%がEMRを使用していますが、外部ネットワークに接続されているのはそのうち57.8%のみで、さらにそのうち地域の健康情報共有に使われるのは22%しかありません。これは、地域間の医療機関が情報を効果的に共有しにくいことを示しています。
国際比較
米国と比較すると、日本の電子健康記録(EHR)の導入率は遅れています。2016年には米国の病院でのEHR導入率は約96%に達しましたが、日本では特に中小規模の病院での導入が遅く、地域差も残っています。この差は、標準化やプライバシー保護の課題が影響していると考えられます。
導入と背景
本調査では、日本における電子カルテ(EMR)および電子健康記録(EHR)の標準化・共有の進捗状況と、地域連携への影響について、国際比較も含めて詳細に分析しました。調査対象期間は主に2021年までのデータに基づき、2025年4月15日現在の最新情報を反映させるよう努めました。
日本では、2000年代初頭から政府がEHRの導入を推進してきましたが、標準化や地域間のデータ共有には依然として課題が残っています。特に、医療機関間の情報交換がスムーズに行われていないことが、地域医療連携の遅れの一因となっています。
電子カルテの導入状況
2021年の調査(Improvement of the Japanese healthcare data system for the effective management of patients with COVID-19: A national survey)によると、COVID-19患者を受け入れた医療機関の53.9%がEMRを使用し、その73.3%が外部ネットワークに接続されていました。しかし、接続されたEMRのうち、地域の健康情報共有に使われるのは22%のみで、オンライン医療保険請求(27.5%)や院内システム保守(61.5%)が主な用途でした。このデータから、地域間の情報共有が十分に進んでいないことが明らかです。
また、2019年の別の調査(Japan Electronic Health Records Market Report 2022 to 2030)では、病院の63%がEMRを導入していると報告されていますが、2021年には医療機関全体でのEHR導入率はわずか9%(Accenture Health and Life Sciences Experience Survey)と低く、特に中小規模の病院での導入が遅れていることが指摘されています。
地域差と標準化の課題
地域差についても、2008年から2014年までの全国調査(Regional differences in electronic medical record adoption in Japan: A nationwide longitudinal ecological study)では、EMRの導入率は増加したものの、地域間の格差は改善されませんでした。特に、病院とクリニックでは関連する地域要因が異なり、クリニックでは人口密度や平均所得が導入率に影響を与えることが示されました。この地域差は、標準化の遅れと密接に関連していると考えられます。
標準化の課題としては、検査データの統一やプライバシー保護が挙げられます。2022年から2030年までの市場予測(Japan Electronic Health Records Market Report 2022 to 2030)では、標準化の遅れや社会保障番号制度の不在(韓国のような制度がない)などが導入の障壁として指摘されています。
地域連携への影響
地域連携の遅れは、EMRの接続率の低さからも明らかです。2021年のデータでは、外部ネットワークに接続されたEMRの22%しか地域情報共有に使われていないことから、医療機関間のデータ交換が制限されていることがわかります。また、情報漏洩の懸念が接続の障壁となっていることも報告されています(Improvement of the Japanese healthcare data system for the effective management of patients with COVID-19: A national survey)。
COVID-19パンデミックの際にも、データ報告のインフラが十分でなかったことが課題として浮き彫りになりました。この時期の調査では、システム統合や二重入力の排除が求められましたが、地域間の連携不足が医療提供の効率を下げた可能性があります。
国際比較
項目 | 日本 | 米国 |
---|---|---|
EHR導入率(2014年、基本+臨床ノート) | 27.3% | 45.6% |
EHR導入率(2014年、大規模病院、400+ベッド) | 65.6% | 68.5% |
EHR導入率(2016年、認定定義) | データ未収集 | ~96% |
地域情報共有の接続率(2021年) | 22%(接続EMRの内) | データなし |
上記表は、Comparing the Trends of Electronic Health Record Adoption Among Hospitals of the United States and Japanおよび前述の日本データに基づきます。米国では2016年にEHRの導入率が約96%に達しましたが、日本では特に中小規模の病院での導入が遅く、地域差も残っています。この差は、標準化やプライバシー保護の課題が影響していると考えられます。
また、2022年の報告(Japan Digital Health Industry)では、日本のデジタル健康技術の利用率は37%で、グローバル平均の60%を下回り、特にオンライン医療(7%)、EHR(9%)、ウェアラブル技術(9%)の利用が限定的であるとされています。これも国際的に見ると遅れが目立ちます。
政策と将来展望
日本政府は2002年からEHR導入に対する補助金を提供し、e-Japan戦略の一環として推進してきましたが、標準化や地域連携の強化にはさらなる努力が必要です。2022年から2030年までの市場予測では、EHR市場は年率4%で成長し、2030年には30.9億ドルに達すると予想されています(Japan Electronic Health Records Market Report 2022 to 2030)。しかし、標準化やプライバシー保護の課題が解決されない限り、地域連携の遅れは続く可能性があります。
結論と考察
研究は、日本での電子カルテの標準化と共有が遅れていることを示唆しており、これが地域連携の遅れにつながっている可能性が高いです。特に、外部ネットワーク接続率の低さ(57.8%)と地域情報共有の利用率(22%)は、地域医療の効率化を阻害する要因となっています。国際比較では、米国と比べて導入率や接続性が遅れていることが明らかで、標準化やプライバシー保護の課題がその背景にあると考えられます。
今後の改善策としては、検査データの標準化、プライバシー保護の強化、地域医療機関間のシステム統合が求められます。これにより、地域連携の強化が期待されますが、引き続き政府や医療機関の取り組みが重要です。
主要引用
- Improvement of the Japanese healthcare data system for the effective management of patients with COVID-19: A national survey
- Comparing the Trends of Electronic Health Record Adoption Among Hospitals of the United States and Japan
- Japan Electronic Health Records Market Report 2022 to 2030
- Regional differences in electronic medical record adoption in Japan: A nationwide longitudinal ecological study
- Japan Digital Health Industry
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