現状と課題:地方部で深刻化する学童保育の不足
少子化が進む一方で、共働き家庭の増加により学童保育(放課後児童クラブ)の需要は年々高まっています。2023年には全国で学童保育の待機児童(利用希望しても入所できない児童)が約1万6,000人に上り (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)、特に小学校入学時に保育環境が途切れる「小1の壁」が大きな問題となっています (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。地方部では施設数や定員が限られ、自治体の財政難から公立学童の廃止も見られるため (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)、「学童がないから働けない」という切実な声が上がっています (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。学童不足は保護者の離職や地域から都市への人口流出を招きかねず、地方経済にも悪影響を及ぼします (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。こうした課題を踏まえ、以下では地方部の待機児童解消に向けた包括的な解決策を提案します。ポイントは、財政的持続可能性を確保しつつ、利用者の満足度向上と将来的な子どもを産み育てやすい環境づくりにつなげることです。
地域資源の有効活用による受け入れ拡充
新たな建物を建設するのではなく、既存の地域資源を活用して学童保育の受け皿を拡大します。具体的には、学校の空き教室や空き施設、図書館の一角、公民館・児童館などを放課後の子どもの居場所として積極活用します。すでに日本全国の学童クラブの多くは小学校の余裕教室等を利用していますが、地方では学校統廃合で生じた空き校舎など活用できる資源が豊富です。例えばフィンランドでは公園内の施設に職員(いわゆる「公園おばさん」)が常駐し、おやつ提供や見守りを行うことで、公園が放課後の子どもと地域住民のゆるやかな交流拠点になっています (講演録2 池本美香氏②|Webマガジン「みらい」Vol.3 )。このように地域の遊休スペースを学童的機能に転用すれば、新設コストを抑えつつ定員拡大が可能です。また学校敷地内で実施すれば子どもの移動負担も少なく、安全面でも有利です。自治体は施設提供を行い、運営は民間やNPOと協働する形で進めることで、迅速に待機児童の受け入れ枠拡大を図ります。 (資料7 池本委員配付資料:文部科学省)
官民連携と財政的持続性の確保
地方自治体だけで全てを賄おうとすると財政的に無理が生じるため、官民連携によって持続可能な運営モデルを構築します。まず民間企業やNPOへの委託を推進し、多様な主体の参入を促します。自治体は基準と監督を担いつつ、民間のノウハウを活かす形です。この際、サービスの質が落ちないよう透明性の確保が重要です。例えばイギリスではすべての小学校に学童保育(放課後サービス)の提供が義務付けられており、各校の取組は親や地域住民が参加する理事会の監督下に置かれ、定期的な監査評価の対象となっています (資料7 池本委員配付資料:文部科学省)。利用状況データも収集・公表され、特定層(例:女子)の利用が少なければプログラムを追加するといった改善が図られます (資料7 池本委員配付資料:文部科学省)。日本でも委託先に運営実績や利用者満足度の定期報告を義務化し、公表する仕組みを整えます。
さらに企業との連携も積極活用します。従業員の子ども向けに社内託児・学童施設を整備する企業には税・社会保険料の優遇を与える制度が有効です (スライド 1)。実際イギリスでは、企業内に保育施設を設置した場合にその費用が税控除される仕組みがあり、ドイツでも親社員が会社補助を受けて学童施設を立ち上げる例があります (スライド 1)。日本でも「企業主導型保育」の学童版のようなスキームを拡充し、地元企業が従業員および地域児童向けに学童サービスを提供できるよう支援します。
これら官民連携の推進にあたり、自治体は必要な予算支援を行います。財政面では、国の交付金や補助制度を最大限活用しつつ、地方単独施策として民間参入を促す補助を設定します。例として岡山市では2024年度に民間学童への補助制度を拡充し、新規開設や定員拡大する事業者に対し「定員に対する欠員1人あたり月額7,500円」の運営補助を支給しています ()。この制度により8事業者・計283人分の受け皿整備が決定しており、待機児童解消に向け大きく前進しました (学童保育 8事業者が受け皿整備へ 岡山市 補助制度に採択で民間参入:山陽新聞デジタル|さんデジ)。岡山市はこの補助に約3,300万円を充当しており、1人当たり初期補助額は約12万円と試算できます (学童保育 8事業者が受け皿整備へ 岡山市 補助制度に採択で民間参入:山陽新聞デジタル|さんデジ)。この程度の支援であれば地方自治体の予算規模でも十分実行可能であり、中長期的には保護者の離職防止や地域定住による税収維持効果で投資に見合うリターンが期待できます (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。なお国全体では放課後児童クラブ運営に年間約1,300億円が投じられています (こども家庭庁の令和7年度当初予算案が公表されました。放課後児童クラブの予算が増えていないようです。 | あい和学童クラブ)。地域の実情に合わせ、これら公的資金と民間資金(企業の福利厚生費、利用者負担など)を組み合わせることで安定的な財源確保を図ります。例えば富山県舟橋村の「fork toyama」のように、寄付金・協賛企業からの資金と、併設したカフェ・コワーキングスペース収益を運営費に充てる工夫も有効でしょう (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。結果として保護者負担はおやつ代のみとしつつ平均30名以上の児童を受け入れる運営が実現できています (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。このような地域ぐるみ・企業ぐるみの支援体制(同施設は「みん営=みんなで支える営利」をコンセプトに掲げています (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。))は地方ならではの強みを活かした持続可能モデルといえます。
IT・デジタル技術の活用による効率化とサービス向上
限られた人員と予算で質の高い学童保育を提供するには、IT技術の活用による業務効率化と利便性向上が不可欠です。まず、利用申請・予約のオンライン化と利用者情報のデータ管理を進めます。例えば東京都稲城市では学童クラブ入所申請をオンライン化し、申請のオンライン受付率98%を達成しました (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請のオンライン化率98%を実現した「伴走支援のあり方」 |GovTech東京) (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請のオンライン化率98%を実現した「伴走支援のあり方」 |GovTech東京)。これにより窓口対応や書類処理に要していた職員負担が劇的に削減され、KDDIの支援事例によれば最大56%の業務時間短縮効果が報告されています (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請 …)。事務作業の効率化は人件費節減にもつながり、その分のリソースを子ども対応に振り向けることができます。
また、出欠管理・延長保育の予約・保護者連絡等にも専用システムやアプリを導入します。既に多くの自治体で、児童の入退室を保護者へ即時通知するサービスや、スマホで欠席連絡・延長申請ができるアプリが普及しつつあります (学童保育所でICTシステムを活用できるシーンとは – GAKUDOU)。民間提供のクラウド型学童支援システムもあり、例えばあるシステムでは1ユーザーあたり月額55円程度という低コストで導入可能です (地方自治体のお客様に“いま”ご提案する内田洋行のソリューション)。こうしたデジタルツールを用いれば、当日の利用児童数がリアルタイムで把握できるため職員配置の最適化(利用児童数に応じたシフト調整)が可能となります。結果として過不足ない人員配置で質を維持しながら人件費を抑制できます (スライド 1)。さらに、緊急時の一斉連絡や、児童ごとの預かり時間延長オプションの細かな管理なども自動化でき、保護者にとっても柔軟で使いやすいサービスとなります。
IT活用は透明性向上にも寄与します。利用状況や満足度アンケートをデータ化して蓄積・分析すれば、改善すべき課題(例:特定曜日の職員不足、行事の満足度等)が見えやすくなります。先述のとおり英国では学校ごとに放課後プログラムの利用実績をモニタリングし、ニーズに合わせ内容を改善しています (資料7 池本委員配付資料:文部科学省)。日本でも自治体が中心となり学童利用ポータルサイトを整備して、各施設の定員・空き状況、年間行事計画、職員資格・経験、利用者の声などを掲載する仕組みを検討できます。保護者が情報を得やすくなることで施設間の健全な競争も生まれ、サービス全体の底上げにつながるでしょう。
保護者・子どもの満足度向上と少子化対策への寄与
最後に、以上の施策を通じて利用者である保護者・児童の満足度を高めることが重要です。学童保育の質と量が充実することは、親が安心して仕事と育児を両立できる環境づくりにつながり、ひいては子どもを産み育てようとする意欲の向上に寄与します (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。実際、とある地方では学童が無いためにフルタイム勤務を諦めていた親が、民間学童の創設によって「安心して働き続けられる」と喜んだケースがあります (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。従来は「フルタイム勤務の家庭でなければ学童に入れない」といった入所制限に不満を感じていた保護者も、受け皿拡大によって希望者は漏れなく利用できるようになれば大きな安心材料です (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。地方の小規模コミュニティにおいても学童が一箇所だけでなく複数選択肢がある状態が望ましく、「預け先を選べる」という安心感は子育て世代の定住を後押しします (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。
サービス内容の面でも、保護者と児童のニーズを反映させます。フィンランドでは学童保育の計画策定に親が参加し、子どもの意見も聞くことでプログラム参加率を高め財政効率も向上したと報告されています (スライド 1)。日本でも利用者アンケートや子どもたちとの対話を通じ、例えば「もっと外遊びの機会が欲しい」「高学年向けの自主学習スペースが欲しい」等の要望を把握してサービス改善に活かします。民間委託の場合でも、地域の声を反映できる仕組み(地域協議会の設置や評価委員会への保護者参加など)を組み込み、利用者視点での質向上を図ります。
学童保育の充実は直接的な子育て支援策であると同時に、長期的には少子化対策にも位置付けられます。安心して子どもを預けられる環境が整えば、共働きでも二人目、三人目の子どもを持つハードルが下がることが期待されます (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)。実際、フランスや北欧諸国では学童を含む放課後の子ども支援を公的に整備し、子どもの居場所づくりと親の就労支援の両面から出生率向上に取り組んでいます ([PDF] 子どもの放課後を考える 諸外国との比較でみる学童保育問題)。例えばフランスでは学童保育が児童福祉だけでなく余暇・教育政策の一環として位置づけられ、朝夕や学校休暇中も子どもが安心して過ごせる場が提供されています ([PDF] 子どもの放課後を考える 諸外国との比較でみる学童保育問題)。こうした包括的な子育て支援策が親の不安を和らげ、結果的に子どもを持つことへの前向きな意識を育んでいます。
おわりに:最適解へのまとめ
以上、(1) 財政的持続可能な仕組みづくり、(2) 利用者の不満解消と出生意欲の向上、(3) 民間活力の活用と透明性確保、(4) デジタル技術の導入、(5) 地域資源の積極活用という観点から、地方部の学童保育不足解消策を提案しました。鍵となるのは、「地域全体で子育てを支える」という姿勢で官民の力を結集し、既存資源と最新技術をフル活用することです。例えば、空き教室を活用した学童クラブを自治体と民間企業が協働で運営し、ITで効率化を図りつつ、地域コミュニティや企業から資金・人的支援を受ける――こうした仕組みならば低コストで質の高いサービスを持続提供できるでしょう。実現には行政の強いリーダーシップと継続的なモニタリングが不可欠ですが、国内外の事例が示すとおり (資料7 池本委員配付資料:文部科学省) (スライド 1)、適切な制度設計と意欲的な取り組みによって待機児童問題は解消可能です。学童保育の充実は地方における「子育てしやすいまち」づくりの要であり、それが巡り巡って地域社会の活力と次世代への投資につながります。今回提案した施策の組み合わせにより、地方部でも安心して子どもを育て働ける環境を整備し、地域の未来を支える最適解として役立てていただければ幸いです。
参考文献・出典一覧
- 池本美香「日本の子どもの放課後を考える」日本総合研究所, 2009 (スライド 1) (資料7 池本委員配付資料:文部科学省) (スライド 1) ([PDF] 子どもの放課後を考える 諸外国との比較でみる学童保育問題)
- 山陽新聞「岡山市 学童保育の民間補助拡充」(2024年8月28日) () (学童保育 8事業者が受け皿整備へ 岡山市 補助制度に採択で民間参入:山陽新聞デジタル|さんデジ)
- 山陽新聞「岡山市 補助制度に採択で民間参入・受け皿283人整備」(2024年12月5日) (学童保育 8事業者が受け皿整備へ 岡山市 補助制度に採択で民間参入:山陽新聞デジタル|さんデジ)
- 萩原和也「こども家庭庁 令和7年度当初予算案と放課後児童クラブ予算」(あい和学童クラブ代表ブログ, 2024年12月28日) (こども家庭庁の令和7年度当初予算案が公表されました。放課後児童クラブの予算が増えていないようです。 | あい和学童クラブ)
- Yahoo!ニュース「「学童がないから、働けない」日本一小さな村の保育料ゼロ学童」(2024年7月19日) (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。) (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。) (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。) (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。) (「学童がないから、働けない」どう防ぐ? 日本一小さな村の”保育料ゼロ”学童 | サストモ – 知る、つながる、はじまる。)
- 髙崎順子「フランスの学童保育:朝も夕方も休日も利用できるわけ」(PRESIDENT Online, 2023年9月4日) ([PDF] 子どもの放課後を考える 諸外国との比較でみる学童保育問題)
- 稲城市・GovTech東京「学童クラブ入所申請オンライン化率98%を実現した取り組み」(2024年2月21日) (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請のオンライン化率98%を実現した「伴走支援のあり方」 |GovTech東京) (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請のオンライン化率98%を実現した「伴走支援のあり方」 |GovTech東京)
- KDDIニュースリリース「自治体業務DXで学童入所業務時間を最大56%削減」(2023年) (区市町村との二人三脚で挑む、行政業務のDX。学童クラブ入所申請 …)
- バスキャッチ「学童保育所向けICTシステム『入退くん』紹介ページ」 (地方自治体のお客様に“いま”ご提案する内田洋行のソリューション)
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