出典:国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な「5つの医療改革」(津川 友介氏)
参考:JPPSTF(Japan Preventive Services Task Force)
日本の医療費は年々増加し、2022年度には46.6兆円に達しました。高齢化が進む中で、持続可能な医療制度を維持するためには、無駄な医療費を削減し、限られた財源を効率的に活用する必要があります。そこで、以下の「5つの医療改革」を通じて、国民の健康を損なうことなく、医療費を2.3兆円~7.3兆円削減できる可能性があると提案されています。本記事では、それぞれの政策の有効性を整理し、最新のデータをもとに検証します。
1. 70歳以上の窓口負担を一律3割負担に引き上げ(1.0~5.1兆円削減)
政策の狙い
現在、70~74歳は原則2割負担(現役並み所得者は3割)、75歳以上は原則1割負担(一定以上の所得がある場合は2~3割)と、年齢によって負担割合が異なります。この改革では、70歳以上の窓口負担を一律3割に統一し、高齢者による過剰受診を抑制します。
エビデンス
- 東京大学の研究では、70歳になって自己負担が3割→1割になると、外来受診が急増することが判明。(重岡仁氏)
- 米国のランド医療保険実験では、医療費の自己負担を増やすと受診が減少し、その影響は主に軽症患者に留まることが確認されています。
- 日本の医療の価格弾力性は -0.2~-0.04(医療費が10%上昇すると、受診は2~0.4%減少)
懸念点
- 受診控えにより重症化リスクが増す可能性
- 高額療養費制度を維持しないと、経済的負担が過度に増大する恐れ
総合評価
✅ 有効性が高いが、慎重な設計が必要
負担増により軽症患者の過剰受診を抑制できるが、重症患者への影響を最小限に抑えるために高額療養費制度の維持が必須。
2. OTC類似薬を保険適用から除外(3,200億円~1兆円削減)
政策の狙い
OTC(一般用医薬品)と同じ成分の医薬品が保険適用されることで、不要な医療費が発生しています。たとえば、湿布、風邪薬、胃腸薬、目薬などが処方されることが多く、医療機関受診を促進する一因となっています。
エビデンス
- 日本総合研究所の試算では、OTC類似薬は医療費の 約2.3%(1兆円)を占める。
- 五十嵐中氏の推計では、OTC類似薬の保険適用除外により 3,200億円の削減が可能。
- 風邪の抗菌薬使用は 無価値医療であり、世界的に削減が推奨されている。
懸念点
- OTC薬を購入できない低所得者層への配慮が必要
- 医師の裁量で必要な処方が制限される可能性
総合評価
✅ 明確な削減効果が期待できる政策
患者負担が大幅に増えない範囲での適用除外ならば、健康への影響は最小限で、医療費削減効果は大きい。
3. 無価値医療を保険収載から外す(9,460億円~1.2兆円削減)
政策の狙い
科学的根拠が乏しい、またはメリットがないと判明した医療サービス(無価値医療)を保険適用から除外し、医療費を削減する。
エビデンス
- 米国の研究では、総医療費の 2.0~2.6% が無価値医療に使われている。
- カナダの事例:血中ビタミンD測定を保険適用外にした結果、検査件数が 93%減少。
- **日本の無価値医療リスト(宮脇敦士氏ら)**によれば、低リスクな手術前の血液検査、風邪に対する抗菌薬治療、認知症末期患者への胃ろう造設などが無価値医療に分類。
懸念点
- 「価値がない」とされる医療の基準をどう決めるか
- 現場の医師の裁量が狭まるリスク
総合評価
✅ 医療費適正化の観点で極めて有効
科学的根拠を厳格に評価し、削除対象を適切に設定すれば、大幅な削減が可能。
4. 外来を包括支払い制度に変更
政策の狙い
現在の出来高払い制度は、診療件数が増えるほど医療機関が収益を得る仕組みであり、過剰診療の要因となっています。包括支払い制度(定額払い)に移行することで、医療サービスの適正化を目指します。
エビデンス
- OECD諸国では、外来の包括支払い制度が広く導入され、過剰診療の抑制に成功。
- 米国やオランダでは、定額払いと「診療成果に応じた報酬(P4P)」を組み合わせた制度が有効に機能。
- 日本でも、DPC制度(入院医療の包括払い)で過剰入院が減少した実績あり。
懸念点
- 過小医療のリスク
- 医療機関の収益減による影響
総合評価
✅ 長期的に見れば極めて有効
適正な診療報酬設計とP4P(成果報酬)との組み合わせがカギ。
5. エビデンスに基づく予防医療を拡充
政策の狙い
予防医療を充実させることで、将来的な医療費を削減し、健康寿命を延ばす。
エビデンス
- 米国CDCの研究では、適切な予防医療の 約2割 が医療費削減につながる。
- 日本予防医療専門委員会(JPPSTF) による予防医療リスト作成が進行中。
懸念点
- 予防医療の費用対効果を厳格に評価する必要あり
総合評価
✅ 国民の健康維持と医療費削減の両面で有効
実施する予防医療の選定が課題。
まとめ
日本の医療制度は世界に誇るべき素晴らしいシステムです。しかし、急速な高齢化と医療費の増加により、この制度を持続可能なものにするための改革が求められています。私たちは、 「国民の健康を犠牲にすることなく、医療費削減を実現する」 という原則のもと、効果的な医療改革を進める必要があります。
すでに、多くの専門家が 「5つの医療改革」 を提案し、それによって 2.3~7.3兆円 の医療費削減が可能であると試算されています。この改革は、単なるコストカットではなく、「無駄を減らし、本当に必要な医療を守る」ためのものです。
私たちが進めるべき5つの医療改革
- 70歳以上の窓口自己負担を一律3割に
高齢者の窓口負担を適正化し、過剰な医療利用を抑えつつ、本当に必要な医療を確保する。高額療養費制度を維持することで、重症患者が治療を受けられなくなる心配はない。 - OTC類似薬を保険適用から外す
ドラッグストアで安価に買える薬を保険適用の対象から外し、医療費の無駄を減らす。 - 無価値医療を保険適用から外す
科学的根拠のない医療行為を見直し、効果のない医療に公費を投入しない。 - 外来診療を包括支払い制度に
医療機関の「薄利多売」モデルを変え、過剰な診療を減らしながら、質の高い医療を提供する仕組みを導入する。 - エビデンスに基づく予防医療の推進
病気になってから治療するのではなく、適切な予防医療を強化することで、医療費の総額を削減する。
改革を進めるために、今すぐ議論を始めよう
この 5つの改革案 は、 国民の健康を守りながら、持続可能な医療制度を構築する ための現実的な解決策です。今こそ、国民一人ひとりがこの議論に関心を持ち、政治家・医療関係者・専門家とともに改革を進めるべき時です。
「高齢者の負担増」といった単純な議論ではなく、 「本当に必要な医療を守るために、どのような改革が必要か」 を、冷静かつ建設的に議論しましょう。
私たちの医療制度を守るために、一緒に行動しませんか?
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