📊 事実
水産業における労働災害の現状
- 漁業・養殖業の労働災害発生率は2025年時点で9.6であり、全産業平均の2.3の4倍以上と高い水準にあるソース2。
- 漁業労働における労働災害の発生率は高い傾向にあるソース6。
- 2026年の農業・畜産・水産業の労働災害発生件数は2,991件であり、前年比で42件(1.4%)増加している。これは同時期の全産業での減少傾向(125,611件から1,718件(1.3%)減少)と対照的であるソース10。
- 労災保険に加入していない場合、事業主は海中転落による死亡に対して約1,000万円、甲板での転倒による骨折に対して約30万円の補償責任を負うソース5。
労災保険制度の改正と適用拡大
- 令和8年7月10日に、農林水産業の小規模な個人経営の事業の一部を労災保険の適用事業とする法律が成立したソース2。
- この「労働者災害補償保険法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第60号)は、令和9年4月1日から施行される予定であるソース2。
- 労災保険制度の改正により、雇用形態に関わらず労働者を一人でも雇っている事業は労災保険の加入が必要となるソース8。
- 漁業センサス(2023年)によると、この暫定任意適用事業の対象と考えられる経営体は最大で約1.8万経営体に上るソース2。
- 労災保険は、労働者が仕事や通勤が原因で負傷、病気、または死亡した場合に給付を行う制度であるソース8。
労災保険の事業主負担と関連施策
- 労災保険料は、労働者に支払う賃金の総額に労災保険率を乗じて算定され、100%事業主負担であるソース8。
- 労災保険率は、海面漁業(定置網漁業・海面魚類養殖業を除く)が18、定置網漁業・海面魚類養殖業が37、海面漁業以外の漁業又は農業が13と定められているソース8。
- 水産庁は労災保険の加入促進に関する政策を展開しておりソース3、漁業の作業安全対策に関する学習教材の作成、ライフジャケット着用義務化、漁船の安全操業に関する講習会を実施しているソース6。
- 家族のみで営む漁業経営体は原則として労災保険制度の対象外だが、特定の条件を満たす場合には特別加入制度を利用できるソース5。
💡 分析・洞察
- 水産業、特に漁業・養殖業における労働災害発生率の著しい高さは、労働力確保と産業の持続可能性に対し根本的な阻害要因となっている。労働環境の劣悪さは、新規参入者の抑制と既存労働者の定着率低下を招き、国益たる食料安全保障の基盤を脆弱化させる。
- 令和9年4月1日施行の労災保険適用拡大は、最大約1.8万経営体と推計される小規模個人経営体に対し、事業主の法定補償責任リスクを軽減しつつ、労働者保護を強化する効果が見込まれる。これは、予期せぬ高額な賠償責任から事業主を守り、倒産リスクを低減することで、地域経済の安定に寄与する。
- 労災保険料が100%事業主負担であるという制度設計は、漁業経営に新たなコスト要因を導入するが、同時に労災による多額の個人賠償リスクを回避できるため、経営安定化への寄与と評価すべきである。労働災害発生件数が全産業で減少する中、農業・畜産・水産業での増加傾向は、現状維持では産業衰退を招くことを示唆している。
⚠️ 課題・リスク
- 約1.8万経営体に及ぶ新規適用対象の小規模漁業経営体において、保険料負担の急増による経営圧迫が顕在化するリスクがある。特に収益性が不安定な零細漁家では、保険加入が遅延または忌避され、実効性の低い制度となる懸念がある。
- 特別加入制度の認知度不足や申請手続きの煩雑さが、家族経営体における適切な補償機会の損失を招く可能性がある。これにより、労働災害発生時に自力での補償対応が困難となり、高齢化が進む漁村の生活基盤を不安定化させるリスクを内包する。
- 労働災害率が高いという根本的な問題に対し、労災保険加入促進は結果的な補償策に過ぎず、漁船の安全操業講習やライフジャケット着用義務化などの予防策との連携が不十分な場合、抜本的な安全性の向上には繋がらず、保険給付負担が増大し国民負担が増加する可能性が残る。
- 労災保険率の業種間格差(定置網・養殖が37、その他海面漁業が18)は、経営形態によっては不公平感や特定の漁業種への過度な負担を生じさせる可能性があり、産業構造の歪みや事業所の廃業増加に繋がるリスクがある。
主な情報源: 厚生労働省 / 水産庁

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