誰一人取り残さないデジタル化の取り組み

背景と目的

日本政府は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」をビジョンとして掲げている (総務省)。このビジョンは、地理的制約、年齢、性別、障害の有無に関わらず、すべての人がデジタル技術の恩恵を受けられる社会を目指すものだ。自治体は住民に身近な行政サービスを提供する立場として、この目標達成に重要な役割を果たしている。本報告では、都城市の「デジタル化推進宣言」を中心に、他の自治体のベストプラクティスを紹介し、具体的な方策と心構えをまとめる。

都城市のデジタル化推進宣言

都城市は2019年8月、全国の自治体に先駆けて「デジタル化推進宣言」を発表した (都城市)。この宣言は、デジタル技術を活用して市民サービスの質を向上させ、利便性の高い豊かな街を構築することを目的としている。市民意識調査では、デジタル化に対する不安として「個人情報やプライバシーの保護」と「デジタル機器・技術への適応」が上位に挙がった。これに応え、都城市は以下の具体策を実施している:

具体的な方策

施策詳細成果
マイナンバーカード支援タブレットを使用した「都城方式」や訪問支援車両「マイナちゃんカー」を導入し、申請を支援。2022年8月時点で交付率84%、全国1位。15,000人以上がマイナポイント事業を利用。
高齢者・障害者向け教育地元高校や企業と連携し、学生が「孫世代のサポーター」として高齢者を支援。プログラミング教室やデジタル活用講座を開催。2020-2021年に36回の講座、518人参加。90%以上がマイナンバーカードを取得。
地域連携地域活性化協力隊を活用し、公共交通が不便な山間部で相談窓口を設置。携帯ショップとも協力。遠隔地住民のデジタルアクセス向上。
広報活動高齢者デジタルリーダーの若宮正子氏を広報誌で紹介し、デジタル化の意義を伝える。高齢者のデジタル利用意欲向上。

これらの施策は、「デジタル化こそアナログで」をスローガンに、セキュリティや適応の不安を丁寧な支援で解消し、市民に寄り添ったデジタル化を進めている (内閣官房)。

組織体制

都城市は市長をCDO(最高デジタル責任者)に任命し、デジタル統括本部を設置。企画部内にデジタル統括課を設け、外部人材や土木技師を活用してデジタル施策を推進。2023年度のデジタル関連予算は2019年度の20倍に増額され、107事業(うち新規34事業)が進行中である (NTT東日本)。

他の自治体のベストプラクティス

他の自治体も「誰一人取り残さない」デジタル化を推進し、以下のような先進事例がある:

宇都宮市(栃木県)

  • 電子申請システム:テックタッチを活用した電子申請システムを導入。操作時間を63%短縮、85%のユーザーがUIの改善を実感、88%が心理的負担の軽減を報告 (テックタッチ)。
  • 意義:住民の利便性向上と行政効率化を同時に実現。

愛知県

  • 高齢者デジタルサポーター:高齢者がデジタル機器を使いこなせるよう支援者を育成。デジタルデバイドの解消を目指す。
  • 成果:高齢者のデジタル利用促進と地域コミュニティの強化。

三重県

  • AI/RPA活用:デジタル庁のような局を設置し、CDOを任命。AIやRPAを活用して行政手続きを効率化。
  • 成果:業務プロセスの自動化により、職員の負担軽減とサービス向上を実現。

鳥取県

  • ICTを活用した健康管理:生活習慣病管理にICTを導入し、高い継続率を達成。
  • 意義:健康増進と医療費削減に貢献。

宮崎市

  • LINEを活用した問い合わせ対応:市民からの問い合わせにLINEを活用し、利便性を向上。
  • 成果:迅速な対応で住民満足度が向上。

小谷村(長野県)

  • 防災DX:高齢者向けにフィーチャーフォンや固定電話で利用可能な一斉安否確認サービスを導入。認知症予防にも活用 (ジチタイムズ)。
  • 成果:災害時の情報伝達と高齢者の安心感向上。

心構えと今後の展望

「誰一人取り残さない」デジタル化には、以下の心構えが重要である:

  • 市民目線:デジタル化は手段であり、住民のニーズに応じたサービス提供が目標。
  • 包摂性:高齢者や障害者、遠隔地住民など、デジタルに不慣れな層への支援を強化。
  • 地域連携:企業や教育機関との協力で、持続可能なデジタル社会を構築。
  • 継続的な教育:デジタルリテラシーの向上を目的とした講座や体験型施策を推進。

これらの取り組みは、デジタル技術を活用して行政の効率化を図りつつ、すべての住民がその恩恵を受けられる社会を構築するものだ。都城市や他の自治体の事例は、地域の課題に応じた柔軟な施策が住民の生活の質向上と地域活性化につながることを示している。今後は、デジタル推進委員の全国展開や、地域ICTクラブの拡充など、さらなる施策の拡大が期待される (内閣官房)。

結論

都城市の「デジタル化推進宣言」をはじめとする取り組みは、マイナンバーカードの普及や高齢者支援を通じて、デジタルデバイドの解消に成功している。他の自治体の先進事例も、電子申請やAI活用、防災DXなど多岐にわたり、住民サービスの向上と行政効率化を実現している。これらの事例から、市民に寄り添ったデジタル化が、地域社会の持続可能性と豊かさを支える鍵であることがわかる。

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