「国民よ、苦しめ」過去10年間に行われた増税及びステルス増税

序論

近年、日本の財政政策では「見える増税」と「見えない負担増」が複合的に進行している。本報告では、2015年から2025年にかけての与党主導による税制改正と社会保障制度改革を中心に、消費税引き上げ、防衛費拡充に伴う付加税、控除縮小や社会保険料改定によるステルス増税の実態を体系的に整理する。また、財務省が主導する「財政再建」と、少子高齢化対策・防衛力強化の相互作用が国民負担に与えた影響を多角的に検証する。

消費税率の段階的引き上げとその影響

2019年の消費税10%移行

2012年の民主・自民・公明三党合意に基づき、消費税率は2014年4月に5%から8%へ、2019年10月に10%へと段階的に引き上げられた。増収分の一部は社会保障充実に充てられたが、経済影響として実質GDP成長率の低下や家計消費の落ち込みが発生し、10%への移行は2度延期された。

軽減税率制度の導入と問題点

2019年の消費税10%導入に際し、食品(外食除く)と定期購読新聞に8%税率を適用する軽減税率制度が導入された。しかし、制度の複雑さから中小事業者に経営圧迫の影響が出たほか、キャッシュレスポイント還元制度は都市部の店舗に偏在し、高齢者層への恩恵は限定的であった。

防衛費拡充に伴う付加税の新設

2023年度税制改正の概要

防衛費を2027年度までに43兆円へ倍増させる「防衛力整備計画」の財源として、法人税・所得税・たばこ税への付加税が導入された。

  • 法人税: 課税所得2400万円超の企業を対象に税額へ4-4.5%を上乗せ
  • 所得税: 復興特別所得税の一部を「防衛力強化税」に転換
  • たばこ税: 1本あたり3円の段階的増税(2024年~2026年)

これにより1兆円強の財源確保を目指すが、法人税増税対象が限定的であるため公平性が問題視されている。

ステルス増税としての外形標準課税見直し

資本金1億円以下の中小企業でも、親会社の出資比率が50%超の場合は外形標準課税を適用する改正が行われた。これにより、企業グループの負担が増加している。

社会保障制度改革に伴う負担増

医療・介護保険料の改定

2023年度より後期高齢者医療制度の負担が増加し、年収211万円超の75歳以上患者の自己負担が1割から2割へ引き上げられた。介護保険料も前期比9.8%増となった。

年金制度改革の影響

国民年金保険料の納付期間が40年から45年へ延長される方針が示され、現役世代の負担が増加している。加えて、在職老齢年金制度の見直しにより、一定所得以上の年金受給者の減額率が引き上げられた。

所得税増税の動向

給与所得控除の縮小

2023年度改正では、給与所得控除の上限が段階的に縮小され、年収1,000万円の労働者で年間13万円の増税負担が発生すると試算されている。

配偶者控除・扶養控除の見直し

2024年度より配偶者控除が廃止され、こども家庭庁関連予算へ振り分けられた。また、特定扶養控除の縮小により、高校生を持つ世帯の負担も増加している。

税外負担増の影響

インボイス制度の影響

2023年10月よりインボイス制度が導入され、適格請求書発行事業者の登録料やシステム改修費用が中小企業の負担増要因となった。

エネルギー関連価格の規制緩和

ガソリン税の暫定税率減免が縮小され、再生可能エネルギー発電促進賦課金の増加と併せて、家庭のエネルギー負担が増加している。

まとめと今後の課題

過去10年間の税制改正では、目的税化を掲げつつも財政再建と政策経費増大の間でバランスを取る手法が採られてきた。特に、消費税収の一部が国債償還に充てられるなど、当初の社会保障目的からの逸脱も指摘されている。

また、ステルス増税の拡大により、国民の税負担感が曖昧になる一方で、負担は着実に増加している。今後の課題として、少子化対策・防衛力強化・財政再建の優先順位付けや、税負担の公平性確保が求められる。特に、金融所得課税の軽減と勤労所得課税の加重といった逆進的構造の是正が、持続可能な税制改革の鍵となる。

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